研究課題
本研究では,秒間5,000 枚以上の撮像速度を可能とする超高速超音波イメージング法において,高コントラストな画像を得るための超音波計測法を開発する.平成29年度は,以下の3項目について研究開発を行った.(1) 2 つの共振周波数を有する超音波振動子の動作特性解析: 圧電板を2枚積層した構造の超音波振動子に関し,2つの異なる周波数の超音波を送波する方法,および受信周波数特性に関する検討を行った.積層振動子は,従来の振動子と異なり,3つの電極を設置している.2つの電極にパルス電圧を印加することにより基本モード周波数の超音波を送波し,受信において高調波を計測できることを確認した.(2) 超音波音場および送受信シーケンス制御法の開発: 上記(1)で検討した積層振動子の駆動方法を参考に,送受信シーケンスの検討を行った.超音波伝搬中に発生する高調波を利用してイメージングを行うための方法として,積層振動子の2電極にパルス電圧を印加して基本モードの超音波を送波する方式を採用する.受信特性は高調波が主となるため,基本モード超音波の伝搬中に発生する高調波を検出可能であると考えられる.高速イメージングを実現するための送信音場としては,1回の送信で広範囲に超音波を照射可能な球面拡散ビームを採用する.(3) 送受信回路の開発: 積層振動子は3つの端子を有し,駆動には2端子にパルス電圧を印加する必要がある.また,イメージングを行うためには積層振動子を配列型に並べたプローブを使用する必要がある.したがって,振動子への電圧印加(送信)および振動子端子間の電圧検出(受信)を多チャンネルで行う必要がある.また,本研究では高調波を十分に広い周波数帯域にわたり計測する必要があるため,20 MHz程度までの超音波信号を計測可能な多チャンネル送受信回路を開発した.
2: おおむね順調に進展している
平成29年度当初に,(1) 2 つの共振周波数を有する超音波振動子の動作特性解析,(2) 超音波音場および送受信シーケンス制御法の開発,(3) 送受信回路の開発,の3つの研究開発項目を挙げており,いずれも当初の目標を達成したことから,順調に進展していると言える.
平成29年度における基礎的検討をもとに,高コントラストな超高速超音波イメージングを実現するために,平成30年度は以下の研究開発を行う.(1) 高分解能・高コントラスト化手法の開発: 超高速超音波イメージングでは,非集束送信ビーム(球面拡散ビーム)を用いることから,送信波の指向性が低く不要エコーが発生し易いため,基本周波数成分を用いた場合,空間分解能・コントラストが劣化する.超音波画像評価用ファントムを用いて,高調波を用いることで画質が向上することを確認する.また,さらに画質を向上させるため,高調波を対象とした高分解能・高コントラスト化のための信号処理手法を開発する.また,GPUによる並列計算により処理効率の向上も図る.(2) 高精度変位・速度推定法の開発: 現在,生体組織の2次元変位推定法としてスペックルトラッキング(ST)法が広く用いられている.ST法は,受信超音波信号の類似度を2つのフレーム間で比較することにより対象物変位を推定する手法である.2つのフレームの超音波信号の類似度を評価するための関数としては,相関関数などが用いられる.ST法では,2つのフレームの超音波信号間のずれ量(ラグ)を変化させながら相関関数を算出し,相関が最大となるずれ量を対象物の変位として決定するため,多数のラグにおける相関関数を算出する必要がある.さらに,高速超音波イメージングでは,フレーム間の時間間隔が小さく,その間の対象の変位量は相関関数の標本化間隔以下の微小なものとなる.それを推定するためには相関関数の補間が必須であり計算量が増大する.また,秒間のフレーム数も最大で数千枚と膨大であることから,変位推定に要する計算量を低減することは非常に重要である.本報告では,受信超音波RF信号の位相や周波数に着目し,補間を要しない高速な変位・速度推定法を開発し,計算機シミュレーションによる基礎的評価を行う.
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