研究課題/領域番号 |
17H03291
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研究機関 | 大分工業高等専門学校 |
研究代表者 |
一宮 一夫 大分工業高等専門学校, 都市・環境工学科, 教授 (00176306)
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研究分担者 |
畑中 重光 三重大学, 工学研究科, 教授 (00183088)
新 大軌 島根大学, 総合理工学研究科, 准教授 (70431393)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ジオポリマー / フライアッシュ / 高炉スラグ微粉末 / 表層劣化 / 高温抵抗性 / 補修材料 / 反応メカニズム |
研究実績の概要 |
ジオポリマーは,石灰石を主原料としない新しいバインダーであり,CO2排出量をポルトランドセメントの最大80%削減,全CO2排出量では最大で10%削減可能となるとの報告もある。また,ポルトランドセメントの弱点である酸や500℃以上の高温での抵抗性にも優れることから,下水道などの酸性環境,トンネルなどの耐火性が求められる構造物へ適用することで,安全性の向上とともに構造物の長寿命化による解体時の産業廃棄物や新設時のエネルギー消費の抑制が期待できる。 本研究では,コンクリート代替となりうる可能性が最も高いと考えられる配合であるフライアッシュの一部を高炉スラグ微粉末で置換したジオポリマーを対象とした。そして,フライアッシュに対する高炉スラグ微粉末の置換率を0%から30%まで変化させ,(1)表層劣化,(2) 高温抵抗性,(3) コンクリート構造物の補修材料への適用,(4) 反応メカニズムなどを検討した。 (1)表層劣化に関しては,環境条件ならびに配合と白華やスケーリングの関係を実験で明らかにするとともに,表面含浸材の有効性についても検討した。(2) 高温抵抗性に関しては,フライアッシュに対する高炉スラグ微粉末の置換率とアルカリ溶液濃度(A/W)を変化させて製造したモルタル供試体の加熱冷却後の圧縮強度の違いから,ジオポリマーの高温下での物性変化を調べた。(3) コンクリート構造物の補修材料への適用では,ジオポリマーを補修材料として使用したRC 部材の曲げ変形挙動およびその破壊特性を実験的に明らかにした。(4) 反応メカニズムでは,ジオポリマーの反応メカニズムを明確にすることを目的に、フライアッシュのガラス相の反応性および反応生成物について検討を加えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度に実施した研究で得られた主な知見を以下に示す。 1.ジオポリマーの表層劣化 : (1) 恒温室(20℃,60%RH)よりも冷蔵庫の中で白華やスケーリングが促進されたことから,ジオポリマーの表層劣化は温度や湿度が低いほど進行しやすい。(2) 高炉スラグ微粉末置換率を高めることで表層劣化を抑制できる。(3) アルカリ溶液の濃度を調整することで表層劣化を抑制できる場合がある。(4) OPCコンクリート用のシラン系表面含浸材はGPの表層劣化の速度を逓減させる効果がある。 2. ジオポリマーの高温抵抗性 : (1)高温冷却後のジオポリマーの色調や形態はアルカリ水比(A/W)により異なり,800~1000℃以下では色調に違いはあるものの形状は安定する。一方,1150℃では配合によっては膨張または溶融する。(2)A/W=0.095において,フライアッシュに対して高炉スラグ微粉末を10%と20%置換した配合は1150℃でも形状変化が生じない。 3. コンクリート構造物の補修材料への適用 : (1)ヤング係数が母体コクリートに近い高強度(60N/mm2)のジオポリマーを用いた鉄筋コンクリート梁の場合は,耐力の回復が良い傾向があった。(2)いずれの補修材料を使用した場合においても付着界面処理の違いによる影響が確認できた。(3)付着界面を良好とした試験体においても付着破壊が生じ,急激な耐力の低下の原因となったと考えられた。破壊メカニズムについて,詳細な検討が必要である。 4. ジオポリマーの反応メカニズム : NaOH 水溶液中でフライアッシュ中の非晶質相の溶解反応が進行する。また,ジオポリマー反応が進行することで非晶質の反応生成物が生成し,増加する。
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今後の研究の推進方策 |
1. ジオポリマーの表層劣化 : 大分県別府明礬温泉の強酸性土壌において試験施工中の歩車道境界ブロックを切断して,ブロック内部の健全度を調査し,表層劣化の範囲並びの表層劣化メカニズムに関するより詳細の検討を進める。 2. ジオポリマーの高温抵抗性 : 特定の配合において1000℃以上の超高温でも溶融しないことを確認した。その結果を受け,供試体断面の偏光顕微鏡観察から生成物を特定するとともに,その生成メカニズムを解明する。また,アルカリ溶液濃度を低下させることで溶融抵抗性は向上する反面,強度が低下することから,フライアッシュを微粉砕することでアルカリ溶液との反応性を高めて,トンネル構造体に求めに水準の強度と高温抵抗性を同時に担保できる配合を探る。 3. コンクリート構造物の補修材料への適用 : 現在,ひび割れ補修材は有機系補修材料であるエポキシ樹脂が付着やひび割れ追従性能などが良いことから,多く活用されているが,紫外線による劣化や耐火性に劣る点,施工時の温度管理や湿潤面での接着不良,またコンクリートとの熱膨張係数,引張強度が異なるなどの問題がある。そこで,粒径の細かさが注入深さに関係することから,超微粒子であるシリカフュームの微細なひび割れへの充填効果を期待し,ひび割れ注入材としてのジオポリマーの活用を模索するための初期段階としての基礎的な実験を行う。 4. ジオポリマーの反応メカニズム : 一般的に研究されているジオポリマーは強度向上を図るべく高炉スラグ微粉末をフライアッシュに対して20%内割置換で混合しているが,セメントと比較して乾燥収縮が大きいことが課題点として挙げられている。そこで,ジオポリマーに対して膨張材を混和した時の水和生成物や,フライアッシュ中のガラス相の反応率などを調査し,膨張材を混和したジオポリマーの水和反応について考察をする。
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