研究課題/領域番号 |
17H03292
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研究機関 | 国立研究開発法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
山田 一夫 国立研究開発法人国立環境研究所, 福島支部, 主任研究員 (30590658)
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研究分担者 |
田地川 浩人 北海道大学, 工学研究院, 助教 (10207045)
渡邊 禎之 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター, 事業化支援本部技術開発支援部先端材料開発セクター, 主任研究員 (70463065)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | セメント水和物 / アルカリ / 相互作用 / 分子動力学計算 / 量子力学計算 / フェロシアン化物 / セシウム / 固体NMR |
研究実績の概要 |
放射性Csの安定化と処分を念頭に、セメント系水和物およびフェロシアン化物とアルカリイオンの相互作用につき、実験的および計算科学的検討を行った。 合成したフェロシアン化物、粘土鉱物、ゼオライト、セメント水和物にCsを吸着させ、研究分担者が固体NMRによりケミカルシフトを測定した。この結果、フェロシアン化物で特に大きなケミカルシフトが認められ、特異吸着の理由と考えられた。別の研究分担者が実施した量子力学計算によってもケミカルシフトが大きいことが再現できた。 研究協力者と連携し、分子動力学計算により、セメント水和物(C-S-H)が形成する1nmの層間空隙を設定し、その空隙とC-S-H表面におけるCsイオンの挙動を検討した。その結果、低濃度の場合C-S-H近傍でCsは特異的に吸着し、また空隙内では水も拘束され拡散係数が自由水中よりも1-2桁小さくなることが分かった。研究分担者により単純化したC-S-Hとアルカリの相互作用の量子力学計算も開始した。 外部研究者と連携し、アルカリのマクロ挙動を反映する、アルカリシリカ反応についても検討し、促進試験においてアルカリ溶脱を防止し水分供給を十分に行うことが重要なことを示した。相平衡計算においては、外部研究者と連携しC-A-S-Hとアルカリの相互作用を組み込んだモデルを構築し、広いアルカリ濃度における相互作用の記載を試みた。 得られた結果をもとに、国際学術誌3編投稿、国際会議4件、国内学会1件、招待講演1件の発表を行った。また、今後行うべき検討について、吸着実験(環境変化を考慮したセメント水和物への広範囲な濃度でのCsとSrの吸着)、固体NMR測定(同氏量のSi, Al)、分子動力学計算(C-A-S-H、多種イオンへの拡張)、量子力学計算(異なる遷移金属フェロシアン化物)、相平衡モデル構築(C-A-S-Hの変質の考慮)の各事項の方針を定めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画に示した各内容をほぼ実施できた。ただし、動力学計算と量子力学計算の結果を比較するまでには至っていない。実際には、量子力学計算により、動力学計算に必要なパラメータ設定を行うべきではあるが、量子力学計算で取り扱える原子数に現有基材では限界があるため、計算実施可能範囲に計画を修正して今後実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
論文化・学会発表は、以下を予定。1)モデルC-S-HとCsの相互作用のMD計算、2)C-S-HへのAl置換、異なるイオン種との相互作用に関するMD計算、3)異なる遷移金属塩のフェロシアン化物にCsを吸着させ、固体NMRによりケミカルシフトを測定し、別途、量子力学計算による結果を比較、4)単純な2個のシリケート四面体への吸着Naの水和分子数によるエネルギー変化、5)異なる組成のC-A-S-Hへの、アルカリ吸着特性と、アルカリ濃度依存性の発表(2件) セメントによるアルカリ吸着は、セメントの変質(溶脱、炭酸化)の影響を強く受けることが分かったので、制御された条件でセメントペーストを変質させ、異なる種類のイオンを競争的に高濃度範囲で吸着させる実験を行う。試料は固体NMRで評価する。 得られたデータから相平衡計算により、吸着状況を再現することを試みる。 分子動力学計算では、得られた計算結果の解析を深め、C-A-S-H上でのイオンの存在状況より深く理解し、狭いゲル空隙の中での拘束された状態が、どの程度の範囲に及ぶのか計算可能性を探る。 量子力学計算は、分子動力学計算により明らかになったアルカリイオンの吸着状況を参考に、より多くのシリケート四面体をモデルとし、アルカリとの相互作用計算を行う。 最終年度には、相平衡物質移動モデルを高度化し、アルカリの挙動を考慮したコンクリートの耐久性予測方策を提案する。
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