研究実績の概要 |
マクロな挙動と原子レベルでの解析の比較を目指し、アルカリとC-(A-)S-Hの相互作用について、量子化学計算により、安定な立体構造を決定し、Naが吸着された場合のケミカルシフトを求めた。この結果と、固体NMRにより測定した値は近いものであり、C-S-Hとアルカリの相互作用の基本を明らかとした。 また、分子動力学計算も行い、C-A-S-Hが形成する微細空隙中での、C/S比、Al/Si比が異なるC-A-S-H表面への、Na, Cs, Caの競争吸着、液相中のアニオンとして、OH-, SO42-, Cl-の共存効果を計算した。この結果からは、CsよりもNaのほうがイオン半径がより小さく、C-S-H表面へより安定的に吸着する結果となり、実験結果と矛盾した。これは、液相中での水和イオンの状態と、C-S-H表面でのイオン吸着のエネルギー差を考慮していないためであり、両者のエネルギー差を計算で求め、熱力学的考察からNaに対するCsのイオン選択係数を計算したところ、吸着実験結果と近い値を与え、実験と計算が整合的であることを示した。 セメントペーストの主成分であるC-A-S-Hは、炭酸化やCaの溶脱により、C/S比が低下する。この際のアルカリ吸着能についても、固相の変化をNMR測定により評価したうえで、測定した。その結果、C-A-S-Hの構造が分解し、ジオポリマーと類似の構造をとるようになると、特異的にアルカリ吸着能力が増加することが分かった。この結果は、別の文科省事業(英知事業、コンクリートの汚染機構解明)へ応用し、アルカリのコンクリート中での移動計算に活用した。 成果は、セメント技術大会、セメント化学国際会議において発表した。また、国際学術誌へも採択された。
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