研究課題/領域番号 |
17H03293
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
横田 弘 北海道大学, 工学研究院, 教授 (50344312)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | コンクリート構造物 / 補修材料 / 性能回復 / 廃棄漁網 / リサイクル |
研究実績の概要 |
廃棄漁網のコンクリート補修材料としての有用性を評価するという観点から、(1)廃棄漁網の実態調査・分析、(2)廃棄漁網を加工して得られるナイロン繊維の活用によるコンクリートの性能回復効果の検討、(3)劣化進行抑制効果の検討の3つの視点から研究を進めた。 (1)について:昨年度に続いて北海道忍路漁港から、新たな廃棄漁網の情報を入手した。この分析結果に基づき、新たな漁網の諸元を(2)および(3)での試験因子として追加した。 (2)について:漁網を短繊維状に裁断してモルタルに混入する場合に加えて、漁網の原形をできるだけそのまま活用し、「#」状、「+」状、および漁網をより広い範囲で裁断してメッシュ状に混入した場合のモルタルの力学性能について試験により検討した。その結果、新たに検討した形状のいずれも、短繊維として用いる場合と比べてモルタルの力学性能の改善が期待できることを明らかにし、その程度を定量化できた。特に、「#」の形状はひび割れ発生後も大きな保持荷重を実現できることがわかり、単に短繊維の両端に存在する結び目とは異なり、繊維中間に多く存在する結び目が効果的であることを明らかにした。漁網裁断の手間を考えると,「#」の形状が圧縮強度の低下はあるものの曲げ荷重保持性能が大きく改善されることから、最も有効な活用方法であることと結論づけた。 (3)について:実海洋環境下における暴露試験を鹿児島市の海洋環境暴露試験場にて開始し、暴露開始から半年後に試験体の劣化状態の確認を行った。その際に、一部の試験体を回収し、各種計測および耐久性向上効果の確認試験を行った。合わせて、劣化因子のコンクリート中への浸透をより詳細に検討するための小型立方体試験体48体を新たに製作し、海水噴霧による暴露試験を開始した。暴露開始から3か月後に一部の試験体を回収し、モルタル内の浸入した塩化物イオン量の測定を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度末時点では達成度が「やや遅れている」と評価したが、平成30年度は力学性能回復効果確認のための試験を精力的に進め、廃棄漁網活用の基本的な方針を決定することができた。また、劣化進行予測効果については、鹿児島市での海洋環境暴露試験体のモニタリングの結果、鉄筋腐食が開始した兆候をつかむことができ、当初の目的を達成する目処がついた。さらに、より詳細な分析・考察を行うための小型立方体試験体での暴露試験を新たに開始し、順調に進んでいる。これらのことから、遅れをほぼ取り戻すことができたと考えており、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は最終年度であるので、試験の成果を総合的にとりまとめるための研究を進める。特に、(4)サステイナビリティの観点からの検討を開始し、漁網リサイクルの環境的側面からの効果を定量的に分析する。そのための予備的検討は、研究協力者からのヒアリングを含めて既に平成30年度に開始している。性能回復効果の検討については、暴露試験体を定期的に回収して劣化進行抑制効果の検討と合わせて効率的に行う計画を立てており、そのための準備もできている。また、劣化進行抑制効果については、塩分浸透を人為的に促進させる電気泳動試験も併用して、学術的な観点からの考察も進める。さらに、凍結融解環境下での劣化抑制効果の確認のための試験に用いる試験体の製作も進めており、所要の成果が得られるものと考えている。
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