廃棄漁網のコンクリート補修材料としての有用性を評価する目的で設定した4つの視点のうち継続して実施中の、廃棄漁網を加工して得られるナイロン繊維の活用による(1)コンクリートの性能回復効果の検討、(2)劣化進行抑制効果の検討、(3)サステイナビリティの観点からの効果の検討の3つの観点から研究を進めた。また、総括して全体成果をとりまとめた。 (1)について:昨年度に継続して、できるだけ漁網の原形状のままで活用することの有効性を実験により検討した。予備実験で確認した「#」や「+」の形状をさらに広げ、施工性も考慮してより適切な形状を検討した。いずれの形状も短繊維として用いることに比べてひび割れ発生後も大きな荷重を保持できることを明らかにした。これをさらに大型のはり試験体で確認する必要があることから、材料を準備し試験体の設計を行った。 (2)について:実海洋環境下における暴露試験を継続して行った。今年度は、試験体を6体回収し、合計12体の試験体を対象として詳細な力学特性および耐久性の確認試験を行った。その結果、漁網ナイロン繊維の混入により曲げ耐力が10%程度向上すること、ひび割れ分散性能が向上すること、および塩化物イオン浸透抵抗性が若干改善できることが確認された。また、寒冷地における耐凍害性の向上効果を凍結融解試験により評価した。330回の凍結融解サイクルを施した結果、漁網ナイロン繊維を混入した場合は、繊維とモルタルの界面より容易に水分が侵入するものの、モルタル表面にある繊維がひび割れに架橋し劣化の進行を抑制することが明らかとなった。 (3)について:廃棄漁網を回収してリサイクルすることによる効果について、環境的側面と経済的側面から評価した。ナイロンは現在の技術では再生処理が難しいとされるが、モルタルへの混入は再生処理技術が将来開発されるまで有効な手法の一つとなる可能性が示された。
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