研究課題/領域番号 |
17H03294
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
斎藤 隆泰 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (00535114)
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研究分担者 |
中畑 和之 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 教授 (20380256)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 炭素繊維強化プラスチック / 異方性弾性体 / レーザー超音波 / 非線形超音波 / 欠陥形状再構成 / トポロジー感度 |
研究実績の概要 |
まず,昨年度に引き続きA)FRPに対する弾性波動伝搬シミュレーターの開発に取組んだ.特に,今年度は,異方性を示すFRPに対応すべく,その基礎となる純面外波動問題に対する演算子積分時間領域境界要素法の高速化に取組んだ.MPI-OpenMPハイブリッド並列等を実施することで,高速化を実現した.またB)FRPに対する新たな非接触弾性定数推定法については,昨年度に引き続き実施し,群速度から位相速度を推定する際に,qP波の波面の方程式を直接求めることで,位相速度を求める方法を開発した.擬似等方積層CFRPや,GFRPへ適用することで,概ね正しく弾性定数を推定できていることを確認した.また,C)FRPに対する非線形超音波法の定量化では,無限FRP中の層間剥離を模擬し,その接触状態を,層間剥離が固着した接触状態である場合,接触はしているが,層間面が滑動している場合,開口している場合に分けて力学的に表現することで,高調波の発生等を確認することができた.一方,D)FRPに対する新たな欠陥形状再構成手法の開発では,まず,無限FRP中の欠陥を層間剥離とした場合の純面外波動問題における線形化逆散乱解析手法を開発した.また,開発した手法を純面内波動問題へと拡張した.いずれの場合においても,層間剥離に対して様々な角度から超音波を送信した場合に得られる散乱波形を用いて,線形化逆散乱解析を実行することで,正しく層間剥離を再構成することができた.一方,E)FRPに対するAE法の開発では,破壊源の推定が重要な鍵を握る.そこで,複数の破壊源で受信した信号を時間反転させ,それらの集束位置から破壊源の位置を推定する方法を検討した.現状では,数値シミュレーションを用いた基礎的検討であり,かつ対象の材料を等方性として扱ったが,破壊源の推定にトポロジー感度を導入することで,欠陥位置を正しく推定することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
A)FRPに対する弾性波動伝搬シミュレーターの開発と高度化については,き裂を厳密に評価可能な純面外問題に対する演算子積分時間領域境界要素法を効率化することができた.計算効率を確認し,予想通りの高速化を実現できたと言える.今後は,面内問題へ拡張する予定である.B)の目的であるFRPの弾性定数推定法の開発は,概ね順調に進んでいるものの,擬似縦波の45度方向の位相速度推定方法に課題がある.45度方向の位相速度は推定精度に大きく影響を与えるため,適当な制約条件を設けて推定を進める必要がある.C)FRPに対する非線形超音波法については,FRPにおいても非線形超音波の発生機構は等方性材料の場合と同じであるため,今後は,非線形超音波を利用した欠陥形状再構成が必要になるかと思われる.ただし,計測実験の際は,FRPの減衰が大きいため,今後工夫が必要であろう.一方,D)は,当初の計画以上に進展している.実際,線形化逆散乱解析を用いた欠陥形状再構成については2つの論文をまとめることができている.今後は,時間反転法を用いた逆解析を進めることが重要であろう.特に,時間反転波の集束位置判定にクロススペクトルを使う方策については,論文をまとめているが,トポロジー感度を用いた場合は論文にまとめ切れていない.そのため,今後は,FRPに対してトポロジー感度を用いた逆解析手法を開発する必要がある.E)一方,FRPに対するAE法の開発は,現在破壊源の推定に関して数値シミュレーションによる考察を行なっている.今後は,試験体を準備し,実験によるアプローチを進めること,AEセンサの配置の検討など,より具体的に進める必要がある.なお,ここで紹介した結果のいくつかは,論文に未投稿であるため,今後は,それらを国際学術雑誌に順次,投稿していくことを考えている.以上総じて,本研究は,おおむね順調に進展していると判断出来る.
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今後の研究の推進方策 |
以上より,A)-E)の各項目に対して,今年度は以下のような推進方策の下,研究を実施する.まずA)については,純面外波に対する演算子積分時間領域境界要素法の高速化コードを,純面内波動問題へと拡張することを行なう.MPIやOpenMP等のハード面の高速化のみならず,高速多重極法等を用いた高速化も検討する.また,有限要素法については,ボクセルメッシュを見直すことを考える.B)については,45度方向のqP波の位相速度を高精度に求める方法を開発し,弾性定数推定法の精度向上を図る.GFRP等の異なるFRPへの適用と,精度確認を引き続き実施する.また,センサの選定と配置が弾性定数の推定精度に大きく影響するため,これらについても再検討する.一方,C)では,前年の成果を論文にまとめるとともに,き裂群による非線形超音波シミュレーションや,D)と関連し,非線形超音波を用いた逆解析手法の開発を検討する.その際,E)への応用を考え,き裂に超音波を入射した散乱波をシミュレーションするだけでなく,破壊による弾性波伝搬シミュレーションの実施についても検討する.次に,D)については,これまでに開発してきた空洞に対する二次元線形化逆散乱解析手法を,三次元へと拡張する.様々な性質を持ったFRPに対して,本手法を適用し,有効性を示すことを行なう.また,時間反転法を用いた場合の欠陥形状再構成については,手法の新規性を考慮し,まずは三次元スカラー,等方性弾性波動問題へ適用する.その後,純面外問題に取組むことを検討している.いずれも,リニアアレイやフェーズドアレイの利用下を想定する.そして,E)では,大きめのFRP試験片を複数用意し,擬似AE源からのAEを取得することで,音響異方性の影響を考慮したセンサ配置について検討する.検討した配置から,時間反転法を用いてAE源を推定することを,実験と数値計算の両面から実施する.
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