模型実験から,河川堤防のパイピングメカニズムは堤体―基礎地盤の地盤特性により大きく異なり特に堤体の強度が高く,透水層の上に低透水層が被覆している複層構造基礎地盤を有する場合,パイピング破壊の危険度が高いことが明らかになった。また,これを基にパイピングに対する危険な基礎地盤構造をさらに細かく検討し,実際の現場に適用可能な評価指標を作成を試みた。さらに,透水性基盤地盤に起因する特徴的な浸透被害が発生した現地で現地調査を実施し,緩み領域の分布から実堤防におけるパイピング進展メカニズムを推定した。また,調査で地盤の緩みが著しかった地点は,透水層が堤内で途切れたいわゆる「行き止まり」構造になっており,さらに堤内側の地表面の標高が低くなっている「不陸」も確認した。そこで,三次元浸透流解析により,行き止まり地盤の位置や透水係数,堤内地の不陸の大きさや形状について,圧力伝播や浸透流速に着目しながら詳細に検討した。 1)簡易貫入試験から大まかな地盤条件を把握し,被災状況と相関のある結果が得られた。特に噴砂が発生した箇所の周辺地盤には局所的な緩み領域が形成されており,堤体直下の基礎地盤まで緩みが進展している地点も確認できた。 2)浸透流解析から,行き止まり地盤は裏法尻直下の圧力を最大で5倍以上変化させることが分かった。また,透水性下層と行き止まり地盤の間に100倍程度の透水係数の差があること,裏法尻から堤体幅の約1.5倍の範囲内に存在することが,行き止まりの効果発揮の閾値になる。 3)堤内地の不陸の集水効果は,不陸の面積と高低差によって整理することができ,面積が小さく,高低差が大きいほど集水効果は強くなる。(最大8倍) 4)パイピング破壊に対して着目すべき地盤条件の定義や閾値を示した新たな点検フローを提案した。また,実際の被災事例と比較することで,点検フローの実堤防における有効性が確認できた。
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