研究課題/領域番号 |
17H03310
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
中屋 眞司 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (70313830)
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研究分担者 |
梅崎 健夫 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (50193933)
豊田 政史 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (60324232)
中屋 晴恵 (益田晴恵) 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (70183944)
安元 純 琉球大学, 農学部, 助教 (70432870)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 海底湧水 / 栄養塩 / 地下水 / 与論島 / 滞留時間 / サンゴ礁 / 潮流 |
研究実績の概要 |
亜熱帯地域にある島嶼では、淡水資源の不足から地下水に水道水源および農業水源を頼っている。そのため、反復利用による地下水溶存成分の濃縮と農業由来の栄養塩の海域への流出によって、地下水環境や海洋生態系への陸水の影響が懸念される。研究2年目は、鹿児島県与論島および沖縄県多良間島において、地下水環境の把握と環境影響評価を目的に調査を行った。与論島では、2018年9月の現地調査から地下水の滞留時間は14.8±5.2年で、その分布に地理的な特徴はなかった。海底湧水の見掛けの年齢は、14.9年±5.3年であったので、海底湧水は潮位変化に応答して陸域地下水が短時間に押し出されたものであると考えられる。 亜熱帯特有の高いCO2分圧により石灰岩の溶解反応の進行が左右される。そこで、CO2の発生源の解明のため、水質と微生物活性の指標となるATP濃度の関係を調べた。水中のATP濃度が高くなるとCO2が高くなる傾向が見られる。また、深度が浅いほどATP濃度は大きい傾向がみられる。以上のことからCO2の主要な起源は微生物の代謝であることが示唆される。また、水中のCO2濃度が7%を超えると、琉球石灰岩の溶解が抑えられ、CO2の地下水への溶解が進み、pHの急激な低下が起こっている。 琉球石灰岩中の地下水にはサンゴ(コユビミドリイシ)の石灰化を阻害する濃度を超過するリン酸が溶存していることが分かった。 実海底モデルによる海底湧水、海水に溶存あるいは海底の砂に吸着した栄養塩の移流・拡散シミュレーションを実施するため、マルチビーム自動測深システムを用いて、与論島東部の海底地形を測量した。三次元数値地形モデルの作成、砂移動も含めた解析モデル作成を進めている。 また、多良間島の調査結果から地下水の滞留時間は浅層では若く深層では古い傾向を示し、島内の水収支から計算する平均滞留時間よりも長いことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鹿児島県与論島において、地下水環境の把握と環境影響評価を目的に、陸域地下水と海底湧水、海域の海底地形を調べ、陸域の海域への影響評価のための水文化学データおよび水文地質データの収集を進めた。その結果、地下水中にみられる高濃度のCO2の発生が微生物代謝によるものであることが新たに確認できた。また、高濃度のCO2は琉球石灰岩の溶解と陸域地下水の酸性化の両方を進めていることも新たに確認できた。さらに、海底湧水への陸域地下水中の栄養塩の流出機構が潮汐変化に呼応した陸水の押し出しであり、陸水の平均的な栄養塩濃度をもつ水が海底湧水となって湧出していることが新たに確認できた。実海底モデルによる栄養塩の海域移流・拡散シミュレーションを実施するため、マルチビーム自動測深システムを用いて、与論島東部の海底地形の測量を新たに実測した。陸域石灰岩の溶食に伴う孔隙変化を模擬して、大きさおよび個数の異なる空洞を有する石灰岩供試体の力学試験を新たに実施した。さたに、淡水レンズを水源とする多良間島の調査を新たに始め、地下水の滞留時間は浅層では若く深層では古い傾向を示し、淡水レンズの深層に古い水が滞留していること、島内の水収支から計算する平均滞留時間よりも長いことがわかった。以上の結果、当初の目的である地下水環境や海洋生態系への陸水の環境影響評価のためのデータ集積が進んだ。平成30年度に予定していた項目はほぼ、実施できた。
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今後の研究の推進方策 |
与論島にて、陸域から海域に至る水系の環境影響評価を総合的に行うために、引き続き、以下の項目について現地調査、分析実験、解析を推進する。 1)陸域淡水資源の賦存量を見るため、帯水層構造と淡水レンズ構造の調査と可視化、2)台風など極端気象変動と陸域淡水資源の水質変動関係の可視化、3)現地の陸域琉球石灰岩中の二酸化炭素濃度変化と石灰岩溶解過程の評価、4)海底砂へのリンの蓄積と海底湧水によるリンの溶出メカニズム、5)ATPを用いた陸域地下水の微生物活性と水質、二酸化炭素濃度変化の調査、6)サンゴへのリンの生物応答試験、7)海岸からリーフ域の海底地形探査で得られたデータを用いた三次元数値地形モデルの作成、8)海岸からリーフ域を含む広域の海底三次元数値地形モデルを用いた潮流および海底砂移動シミュレーションによる栄養塩の移流・拡散評価、9)高濃度二酸化炭素による陸域石灰岩の溶食に伴う透水係数の変化と溶解後の脆弱性の評価。
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