研究実績の概要 |
食品製造廃水を処理する中温Expanded granular sludge bed (EGSB) リアクターで発生した嫌気性バルキング原因菌の空間的位置を調査するため、健全なグラニュール汚泥切片を作製した。昨年度、バルキング原因菌として同定したメタノサエタ属アーキアやアナエロリネア綱細菌を標的としたDNAプローブを用いたFluorescence in situ hybridization法を適用した。空間分布解析は、グラニュール汚泥表面付近に存在するアナエロリネア綱細菌に対して、メタノサエタ属アーキアは、グラニュール汚泥内部に分布していることを明らかにした。これらの結果は、汚泥表面と内部に存在する微生物が異常増殖することで嫌気性バルキングが引き起こされたことを示唆していた。 次に、アナエロリネア綱細菌を分離・培養するため、限界希釈培養法とロールチューブ法を組み合わせた。アナエロリネア綱細菌は、廃水中の糖成分を発酵的に利用することが示唆されたため、グルコースと酵母抽出液を基質として分離・培養を試みた。また、既存のアナエロリネア綱細菌が耐性を有するアンピシリンも用いた。限界希釈培養法とロールチューブ法を繰り返した結果、最終的には、バルキング原因菌の一つとして同定されたアナエロリネア綱細菌HRD-3株の分離・培養に成功した。 HRD-3株のドラフトゲノム解析を行った結果、56個のコンティグ (1,000bp以上) から構成されるドラフトゲノムの構築に成功した。最終年度において、バルキングメカニズムの分子機構の解明までは到らなかったものの、培養困難なバルキング原因菌の分離培養に成功したとともに、ほぼ完全なドラフトゲノムの構築に成功した。将来的には、本株をもとに、バルキングメカニズムの分子機構の詳細解明に到る基盤の確立に成功した。
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