研究課題/領域番号 |
17H03338
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
五十嵐 規矩夫 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 教授 (40242292)
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研究分担者 |
佐藤 公亮 東北大学, 工学研究科, 助教 (50788510)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 建築構造 / 鋼構造 / 座屈 / 薄板 / 境界条件 |
研究実績の概要 |
本研究は,薄板化鋼構造部材の終局状態における実保有性能の評価とその合理的な設計法を確立することを目的とし,その成果を応用することで,薄板の利用 促進,市場拡大に繋げるための実用化を図るものである.具体的には,構成板要素が薄板化された鋼構造部材は,座屈不安定現象により部材の保有性能が左右されることから,その挙動を把握,解明するために,載荷実験を基本としつつ,数値解析による詳細な検討を行い,弾性座屈耐力から終局耐力算定までの新たな薄板部材設計法を提案するものである.さらには,薄板化鋼構造部材の不安定性状に大きな影響を及ぼす部材が取り付く箇所の形状・境界条件および補剛スチフナ 等の関係性に言及し,より合理的な薄板化鋼構造部材の開発,周辺部材との関わりを考慮した合理的な設計法の確立を目指すものである. 以上の目的のため,平成30年度は以下の3つのサブテーマを検討した.1)部材端部形状が局部座屈性状に及ぼす影響と塑性ヒンジ保有性能の評価,2)部材端部スチフナ補剛による部材保有性能の向上効果とその設計手法,3)部材接合方式に起因する座屈性状の定量的評価とその設計手法,である. サブテーマ1)では,梁端部ウェブテーパーを有する梁を対象に,網羅的な数値解析を通して,部材端部の座屈性状に及ぼす応力状態の影響を整理し,座屈耐力の簡易的算定法を提案した.サブテーマ2)では,部材端部のみをスチフナ補剛することにより,部材塑性変形能力の向上を目的とし,スチフナ設計の定量化,合理化を目指した検討を進めた.また,上フランジ拘束条件下にある梁に対するスチフナの補剛効果についても補剛位置の詳細な検討と理論的解明を進めた.サブテーマ3)では,薄板軽量形鋼部材を対象に接合形式の違いにより,これまでの部材設計手法の考え方を踏襲できないことや,部材への要求性能が異なることを数値解析を通して検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は,薄板化鋼構造部材の終局状態における実保有性能の評価とその合理的な設計法を確立することを目的と,1)部材端部形状が局部座屈性状に及ぼす影響と塑性ヒンジ保有性能の評価,2)部材端部スチフナ補剛による部材保有性能の向上効果とその設計手法,3)部材接合方式に起因する座屈性状の定量的評価とその設計手法,を研究テーマとして行った. 「部材端部形状が局部座屈性状に及ぼす影響と塑性ヒンジ保有性能の評価」(サブテーマ1)では,梁端部ウェブに応力緩和,施工合理化の為に設けるテーパーを有する梁を対象に,理論的に応力状態を把握をした上で,網羅的な数値解析を通して,実条件を考慮した部材端部の弾性局部座屈性状に及ぼす応力状態の影響を整理し,通常断面の座屈耐力からの安全率を考慮することで座屈耐力の簡易的算定法を提案した.また,弾塑性性状を確認するための,載荷実験を計画し,試験体を製作した. 「部材端部スチフナ補剛による部材保有性能の向上効果とその設計手法」(サブテーマ2)では,部材端部をスチフナ補剛することにより局部座屈を拘束し,部材の塑性変形能力向上を図るためのスチフ設計手法に関する検討を行い,その基本的知見を得た.また,上フランジ拘束条件下にある梁に対するスチフナの補剛効果についても補剛位置の詳細な検討と理論的解明を進めると同時に,これらの成果を確認するための,載荷実験を計画し,試験体を製作した.これらは,平成31年の検討にもつながるものである. 「部材接合方式に起因する座屈性状の定量的評価とその設計手法」(サブテーマ3)では,サブテーマ1)と関連したものの他に,薄板軽量形鋼部材を対象に梁端部の接合形式の違いによる座屈形式の相違を検討するとともに,実境界接合状態を考慮した座屈耐力算定手法を提案した.
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度に計画している本研究のサブテーマは,「部材接合方式に起因する座屈性状の定量的評価とその設計手法」(サブテーマ3)および「各種境界条件および補剛形式が部材の連成崩壊性状に及ぼす影響の解明」(サブテーマ4)である.サブテーマ3)については,平成30年度からの継続テーマであり,サブテーマ4)は平成31年度からの新規テーマであるが,本研究課題の大目的である境界条件に応じた鋼構造部材の実挙動を把握し,鋼構造部材の合理的な設計手法を構築することと直接関連するものであり,本検討を通して最終的な取りまとめも行うこととなる. サブテーマ3)では,平成30年度実施した梁端部ウェブにテーパーを有する梁に対して,その座屈性状を載荷実験を通して具体的に検討する.これまでの弾性座屈性状に加えて,弾塑性性状および崩壊形式,塑性変形能力を詳細に検討する. また,薄板軽量形鋼部材の梁端部接合形式の違いが部材性能に及ぼす影響に関する検討も継続する.薄板軽量形鋼部材の部材端部は,比較的軽微な接合となっており,特にウェブのみをネジ等で接合する場合を詳細に検討する.さらに対象を組立梁に拡張し,部材同士の接合性能に言及する. 昨年度までは,安定的な塑性ヒンジ形成が必要とされるのは部材端部のみであり,部材中央部分においては比較的薄板で形成することが可能であるという考えのもと,スチフナ補剛した梁の性状を検討してきた.平成31年度は,スチフナの局部座屈および横座屈に対する補剛効果のみでなく ,それらが連成して発生する連成座屈に対する効果をサブテーマ4)として検討する.これは,サブテーマ2)と関連したものであり,端部境界条件,梁上端の拘束条件,荷重条件に応じて発生条件の異なる座屈形式に応じたスチフナ位置等の最適配置計画に繋がる検討を載荷実験および数値解析を通して行う.
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