研究課題/領域番号 |
17H03340
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
加藤 大介 新潟大学, 自然科学系, 教授 (90169508)
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研究分担者 |
中村 孝也 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (50305421)
本多 良政 小山工業高等専門学校, 建築学科, 教授 (80509919)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 鉄筋コンクリート / 袖壁付き柱 / 曲げ強度 / 変形能 / せん断強度 / 安全性 / 損傷制御性 / 耐震設計 |
研究実績の概要 |
袖壁の有効利用が議論されるようになり,日本建築学会の保有水平耐力計算規準でも,袖壁の圧壊に依存する曲げ変形能の評価法が提案されている。しかしながらその検証,特に袖壁端部の拘束が変形能に及ぼす影響の評価,は十分とは言えない。そこで,当該年度は袖壁の圧縮端部が曲げ変形能に及ぼす影響を検討するために,主に壁厚と圧縮端部の拘束およびシアスパン比を変化させた3体の曲げ降伏するRC造袖壁の静加力実験およびそのFEM解析を行っている。 主な着目点は袖壁端部が圧壊するときの変形能であり,試験体は簡略化のため柱型の幅を袖壁厚さと同じにした長方形断面である。いずれの試験体も計画上のせん断強度比は小さいが曲げ破壊を示し,得られた変形能は日本建築学会の保有耐力規準による評価式と比較している。 その結果以下の結論が得られている。 (1)柱型を袖壁厚さと同じにしたRC造袖壁試験体3体の静加力実験を行った結果,いずれも袖壁端部の圧壊により変形能が決定され,実験パラメータ(拘束の有無)に対しては有意な差が見られた。その一方で,壁厚とシアスパンに関しては予想より影響が少なかった。(2)保有耐力規準による変形能評価式と比較した結果,試験体M1(t=120mm),M2(t=150mm)の実験値は計算値を下回り,評価式は危険側になる場合があることが分かった。(3)実験結果を用いて保有耐力規準のコンクリートの圧壊時ひずみ度を逆算したところ,袖壁端部の面内と面外の拘束筋比の和に直線関係が認められ,今後検討していく価値があることが分かった。(4)FEM解析では実験値を概ね追跡できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要」で述べたように,当該年度の3体の静加力実験およびそのFEM解析は順調に終了した。一方,同年度にさらに追加で静加力実験を計画していたが,実験パラメータの影響が若干少なかったので,追加実験は延期し,その原因の解明の検討に力を注いだ。そのために,FEM解析を充実させた。具体的には今年度の3体だけではなく,当研究室で行ってきた既往の試験体を全て対象として解析を行った。 一方,以前から行っていた開口による影響についても検討を継続している。開口の大きさや位置の影響は,その目的が変形能に影響しない位置を特定することになるので,数多い実験を行うことは無意味である。そこで,FEM解析により,開口の大きさと位置を広い範囲で変化させたパラメトリックな解析を行うことができている。 さらに,これも以前から行っていた平面保持解析による袖壁端部の拘束の影響の検討も継続して行っている。座屈モデルの応力度ひずみ度関係を定式化して,平面保持解析に適用することを試みている。具体的には,ひずみ硬化域には多用されるRamberg Osgoodモデルを用いるが,座屈が発生した後にはそれを反転させて適用することを試みる。また,鉄筋の座屈挙動で重要なことは,座屈はそれまでの累積ひずみが所定の座屈ひずみに達した時に生じる点,および,座屈後に引張を受ける場合には強度が復活しない点,などがあり,これらはなるべく実情に近い形で適用する。軸筋の座屈から決まる圧壊領域にこの平面保持解析結果を適用することにより,実験結果を詳細に再現することができている。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」で述べたように,一部追加実験の延期があるものの,研究全体としては研究計画書通りにほぼ順調に進展している。そこで,今後も研究計画書で述べた通りの方策を考えている。 具体的には,以下の3つの研究を計画している。 要素実験:研究代表者は以前,柱部材を対象に主筋の座屈に関する研究を行っているが,その際の視点は座屈長さであった。RC造柱においては主筋の座屈が単に帯筋間で生じるのではなく,複数の帯筋区間(ここではその区間数をNBと呼ぶ)で生じることに着目し,そのモデル化を行っている。既往の研究では,単純圧縮実験での圧壊領域とこの座屈長さの関係を検討したが,最近行った袖壁付き柱の実験で,袖壁部分の圧壊領域にも同様のことが当てはまることが分かっている。この圧壊領域は平面保持解析から部材の変形に換算する際に極めて重要となり,従って,袖壁モデルの安全限界点を定式化する際の重要なポイントとなる。そこで、座屈長さに関しては袖壁端部のみを取り出した要素実験を行い,部材実験との関係を把握する予定である。 平面保持解析:「現在までの進捗状況」で述べた通りの研究を継続する予定である。 FEM解析: FEM解析により,引き続き開口の大きさと位置を広い範囲で変化させたパラメトリックな解析を行う。筆者らは過去に行ったせん断破壊型の有開口袖壁付き柱のFEM解析を行い,その挙動を精度よく追跡できたことを報告している。その延長上に曲げ破壊型の実験結果を再現できるように力を注ぐ。また,袖壁付き柱と単独柱の破壊形式をパラメトリックに変化させた場合の柱モデルの破壊形式の検討も行う。
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