研究課題/領域番号 |
17H03346
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
曽田 五月也 早稲田大学, 理工学術院, 名誉教授 (70134351)
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研究分担者 |
脇田 健裕 早稲田大学, 理工学術院, その他(招聘研究員) (10469025)
渡井 一樹 早稲田大学, 理工学術院, 助手 (30778189)
宮津 裕次 広島大学, 工学研究科, 助教 (70547091)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 薄板軽量形鋼造 / 高靭性高減衰構造 / 制振構造 / 摩擦機構内蔵耐力壁 / 油圧式リンク機構 / 機械式リンク機構 / 滑り基礎構造 / 震度7地震動 |
研究実績の概要 |
本研究は、建築物を高靭性化・高減衰化することで建物への地震入力エネルギーを効率的に低減・吸収して、震度7級の地震動に対しても建物をほぼ無損傷にとどめる耐震構造法の開発を目指すものである。1995年の兵庫県南部地震では、人命にかかわる大きな構造損傷が低層の建築物に極めて顕著に発生したため、本研究が当面対象とする建物種別は低層の軽量構造としている。エネルギー吸収性能を高めるためには構造本体の変形能力(靭性)とエネルギー吸収性能(減衰性)を高める必要があり、薄板軽量形鋼造を基本構造としてその枠材と面材との間に摩擦機構を内蔵する耐力壁を新たに開発した。摩擦系の減衰機構は低レベルの外乱の作用に対する振動低減効果が低いため、上部建物にはオイルダンパや粘弾性ダンパも設置する。この時に、エネルギー吸収性能が建物全体で効率的に行われるよう、各層の変形分布を制御するリンク機構を併用する。さらに激しい震度7の地震動の作用に対しては建物全体を摩擦係数0.3-0.4程度の滑り基礎面上に設置することで建物へ作用する地震力そのものを低減する。強風時にも建物が滑らないこと、強震時にも過大な変形・加速度が発生しないこととして、震度7地震動が繰り返して作用する場合にも強震後に建物の継続利用が可能となる。 解析的な検討や要素実験により、亜鉛メッキ鋼板とCLT合板の表面を組み合わせて摩擦係数が約0.35の滑り面を実現できた。変形分布制御機構としては油圧式のオイルダンパと機械式の粘弾性ダンパの両者を比較検討した。変形分布制御機構は平面的な捩じれ振動の防止にも適用できるものであるが、今回の研究では3層建物の上下層の変形分布を制御する仕様として利用した。建物全体系の振動台実験は都合により2018年度へ繰り越して実施したが、当初の目標通りの成果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で開発を目指す構造システムは3種類の構造要素(摩擦機構内蔵薄板軽量形鋼造耐力壁、リンク式変形分布制御機構、滑り基礎)の組み合わせにより構成される。 2017年度の前半は種々の仕様の各構造要素に対する単体基本性能試験を行いそれらの静的・動的性能を詳細に検討した。その後、同年度後半には提案する構造システムとして組み立てた実大建物の振動台実験を実施する予定であったが、振動台施設の都合により2018年度に繰り越して実施し、当初の目標通りの成果を得た。即ち、低層軽量構造を対象として、震度7地震動の作用に対しても、震災後の建物の継続利用を可能にするという耐震性能目標を達成できることを確認した。 振動台実験では、摩擦構機構を内蔵した基礎固定の薄板軽量構造自体でも震度7地震の作用に対して倒壊を防ぐことが可能であることが確認されたが、いずれかの層に変形が集中する可能性が高いことも明らかになった。一方、油圧式/機械式の変形分布制御機構を併設することで各層の最大変形を低減できるばかりでなく、建物各層の変形分布を一様化して効率的に地震入力エネルギーを吸収できることを確認した。さらに建物を滑り基礎上に設置することで、震災後にも建物を継続利用できる可能性が著しく向上することを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
提案する構造システムを構成する各要素について、2017年度に実施した研究の成果と2018年度に繰り越して実施する振動台実験の結果を精査した上で、提案する構造システムの実用化を前提とした仕様の改良を試みる。 摩擦機構内蔵耐力壁については中層建築物に適用した場合の耐力壁の最適配置設計法と構造特性係数の導出方法に関する詳細な検討を行う。また、提案する構造システムの実用化に向けて、薄板軽量形鋼造耐力壁構造の合理性・経済性を考慮した現実的な設計・生産システムを構築する。 リンク式の変形分布制御機構については、2018年度に繰り越して実施する3層建物の振動台実験の結果を解析的に検証する。事前の解析的検討や要素実験ではリンク式変位制御機構(ダンパ)は効率的に性能を発揮すると予想できるものの、解析的な検討において主構造との取り合いに関するモデル化が構造システムの応答に強く影響することが判明したため、主構造の復元力特性に非線形弾性バネを直列結合するモデルによる検討を加えることにする。また、主架構の減衰特性をより詳細に把握することで解析手法のさらなる精度向上を図る。 滑り基礎に関して、滑り面の摩擦係数を0.4程度とすることで、大地震時にも過大な滑り変位を抑制しつつ上部構造の応答を低減することが可能であることを確認する。滑り基礎構造の利点は、基礎部の滑りにより上部構造に作用する地震力を低減できることであり、その利点を積極的に活かした簡易な地震応答評価法を提案し、滑り基礎構造を適用した建築物の簡易な耐震計算法として整理する。また、構造システムを構成する構造要素の単体性能試験結果をもとに構築した解析モデルによる解析的検討を加えて、さらに多様な構造の建築物に提案する構造システムを適用した場合の検討を行い、構法の適用範囲の拡大を検討する。
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