研究課題/領域番号 |
17H03347
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研究機関 | 国立研究開発法人建築研究所 |
研究代表者 |
新井 洋 国立研究開発法人建築研究所, 構造研究グループ, 上席研究員 (40302947)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 地震防災 / 地盤変状 / 発生予測 / 既存宅地 / 微動 |
研究実績の概要 |
本研究は,将来の大地震に対する宅地防災において不可欠な,広範囲にわたって実施可能な既存宅地の地盤変状被害発生の簡易予測法を確立するため,次の検討を行う.(1) 任意の地震動レベルに対する既存宅地の地表水平変位の簡易算定法の導出,(2) 微動1点観測から既存宅地のS波速度構造を推定する手法の適用限界の明確化,(3) (1)と(2)の結果を反映した既存宅地の地震時の地盤変状被害発生予測システムの構築および妥当性・有効性と適用限界の検討,(4) (3)で構築した地盤変状被害発生予測システムの地震リスク評価への応用の可能性の検討. 平成29年度は,上記の(1)と(2)の検討を行い,目標を概ね達成できた.すなわち,(1)については,水平多層地盤を2層地盤系および基礎固定の多質点系に置換して両者の系における地表変位の数式表現を等置して整理し,また,土の非線形性を室内試験データに適合させた数式モデルにより粘性土地盤と砂質土地盤を表現し,さらに,地震荷重を応答スペクトルの加速度一定および速度一定領域の値により規定することで,電卓のみで演算可能な地表水平変位の簡易算定法を構築した.その妥当性と有効性は,国内114地点の地盤モデルを用いた地震応答解析結果との対比から検証された.一方,(2)については,大阪や熊本の地盤構造既知の多数地点における微動1点観測に基づくH/Vスペクトルの逆解析結果から,概ね10度程度を越える大きな地層境界傾斜などない限り,推定S波速度構造には,ある程度の信頼性と精度のある可能性が示唆された.なお,これらの成果に基づいて,上記の(3)について,既存宅地の地震時の地盤変状被害発生予測システムを構築し,その妥当性・有効性と適用限界について,2016年熊本地震の被災宅地で適用することにより,検討を開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記した検討内容(1)-(4)のうち,平成29年度における達成目標は(1)および(2)である.これらは,上述のとおり,概ね予定どおり達成されている.
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今後の研究の推進方策 |
前述の検討(2)を継続する.申請者らの所属機関が位置する地域において,開発した観測処理解析システムを用いて1点微動探査を行い,地盤のS波速度構造の推定結果を蓄積するとともに,既往の地盤情報や周辺の地形・堆積環境等との対比から,同探査法の有効性と適用限界について検討を重ねる. 前述の検討(3)を継続するとともに(4)に着手する.熊本,仙台,柏崎の複数の被害・無被害宅地において,被害状況の記録,宅地造成の記録と建設時のSWS試験データを収集・整理し,開発した地震時地表水平変位の簡易算定法および1点微動探査法ならびに近傍の強震記録あるいはシミュレーション解析により再現した強震動を用いて,地表水平変位の推定結果を蓄積するとともに,実際の地盤変状被害の発生の有無との対比から,被害の発生する地表水平変位のクライテリアを決定する.この際,当該地域の強震動の再現解析が必要で地盤構造の情報が不足する国内2地点について,地盤調査および室内試験を実施したい.
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