研究課題/領域番号 |
17H03355
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
尾崎 明仁 九州大学, 人間環境学研究院, 教授 (90221853)
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研究分担者 |
福田 展淳 北九州市立大学, 国際環境工学部, 教授 (00267478)
李 明香 立命館大学, 理工学部, 准教授 (00734766)
隈 裕子 湘南工科大学, 工学部, 准教授 (10617749)
住吉 大輔 九州大学, 人間環境学研究院, 准教授 (60432829)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 自然エネルギー利用 / パッシブクーリング・ヒーティング / 省エネルギー / ZEH / 太陽集熱 / 放射冷却 / 調湿 / 除湿 |
研究実績の概要 |
近年の住宅は,室内熱環境の改善および暖冷房負荷の低減を目的として断熱気密化される傾向にあり,施工の簡便性および精度の確実性を重視して,土壁による伝統的な湿式構法から窯業系サイディングや石膏ボードなどの工業建材を使用した乾式構法に変化している。また,「住宅の省エネルギー基準(エネルギーの使用の合理化に関する法律)」の施行により断熱気密はますます強化されており,それに付随して住宅熱性能は従来の定性的な説明から数値による定量的な評価が求められている。これにより,断熱気密性能は格段に進歩しているが,性能表示は「外皮平均熱貫流率」「日射熱取得率」,あるいは「住宅事業建築主の判断基準算定用WEBプログラム」によることが多く,日射熱取得,換気(通風),躯体蓄熱,内部発熱など,気象条件や生活行為が関係するダイナミックな伝熱現象は反映していない。さらに,壁体の吸放湿(室内湿度変動)や熱放射など,快適性に大きく影響する要因も無視している。つまり,太陽熱や外気冷房などの自然エネルギー利用や建物の温湿度特性に影響する構法固有の特徴は勘案されず,一辺倒な断熱気密化(乾式構法)に拍車をかける結果となっている。 現在の省エネルギー基準は国際的に高い水準であるが,それでも住宅用エネルギー消費量のうち約3~4割は暖冷房に使用されている。今後,住宅の断熱気密性能をいっそう強化してもエネルギー消費量はわずかに削減される程度であると推察されるため,将来のゼロエネルギー住宅を目指した更なる省エネルギーのためには新たな技術の導入が不可欠である。 そこで,本研究では自然エネルギーを利用し恒温恒湿性能および夏季除湿と冬季集熱の機能を備えるパッシブ住宅の設計を目的として,工業建材を主とする最近の乾式住宅にも適用可能な蓄熱・調湿(夏季は除湿)の特性を有するインテリジェント外被システムを開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,環境試験室における模型実験,試験住宅を使用した屋外実験,建築温湿度・熱負荷シミュレーションにより,①インテリジェントPDSC外被システム(夏季は自然除湿,冬季は太陽集熱・蓄熱)の開発,②熱・水分・空気連成を考慮したオブジェクト指向型の建築環境解析ソフトの開発,③室内温湿度および暖冷房負荷を目的変数,建築仕様やライフスタイルを説明変数とした熱・水分・空気の複合移動に関わる要因解析,④蓄熱と調湿を利用した室内温湿度のパッシブ制御および省エネルギー性能の評価,⑤蓄熱・調湿建材を有効活用するための自然エネルギー利用と建築仕様に関わる設計指針の提案,などを計画している。 平成29年度は,まず優れた断熱と吸放湿特性を有する多機能建材を効果的に利用する外被システム(夏季は室内外のポテンシャル差を利用して自然に除湿し,冬季は太陽集熱・蓄熱するインテリジェントPDSC(Passive Dehumidify and Solar Collector)外被システム)を開発した。 同時に,建築の熱と水分と空気の連成移動を非平衡熱力学に準拠した非線形現象として表現し,建築全体の温湿度変動を予測する数値シミュレーションソフトを開発した。本ソフトでは躯体内部の熱伝導と水分伝導,および躯体境界の熱伝達と水分伝達の精緻な連成計算を可能としている。 次に,数値シミュレーションにより,多機能建材を使用した蓄熱・調湿(夏季は除湿)性能を有するPDSC外被システムの設計指針について検討した。室内温湿度および暖冷房負荷を目的変数,建築仕様やライフスタイルなどの影響因子を説明変数としてパラメータ感度解析を行い,PDSC外被システムの性能ガイドラインについて定量的に解析した。さらに,環境試験室において模型実験を行い,測定結果と計算結果を比較することにより,数値シミュレーションの精度について検証した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続いて,熱と水分と空気の連成を考慮した建築全体の熱環境解析ソフト(オブジェクト指向型プログラム)を開発する。計算精度の向上を図るとともに,入力条件となる物性値を整備し,ソフトの汎用化を図る。特に,多孔質材の水分伝導率については,①分子拡散,②Knudsen拡散,③表面拡散,④毛管凝縮相の移動の4つの形態を考慮したミクロ孔からマクロ孔に亘る総合的な分子拡散モデルを構築し,水分伝導率の推定方法を確立する。 また,太陽熱や外気冷房などの自然エネルギーを利用して,恒温恒湿性能および夏季除湿と冬季集熱の機能(インテリジェントPDSC外被システム)を備えるパッシブ住宅を設計・建設し,屋外実測によりその性能を明らかにする。同時に,熱環境解析ソフトを使用してパッシブ住宅の数値シミュレーションを行い,計算結果と測定結果を比較することによりソフトの精度について検証する。 さらに,数値シミュレーションを駆使したパラメトリック解析(数値実験)により,室内温湿度のパッシブ制御および省エネルギー性について検討する。室内温湿度および暖冷房負荷を目的変数,建築仕様,ライフスタイル,気象条件などの影響因子を説明変数として回帰分析を行い,蓄熱・調湿性能(夏季は除湿)に関する設計指針を考案する。 建築で起きる熱と水分と空気の複合移動を熱力学に基づき詳細に数理モデル化することにより,住環境(室内温湿度および空調用顕熱・潜熱負荷)の予測精度を格段に向上する。また,自然エネルギーや壁体の蓄熱・調湿を利用して住環境を制御するパッシブ・クーリング&ヒーティング手法により,断熱気密性能のみならず恒温恒湿性能を付加することで,住宅性能の新基準および新たな住宅構法・仕様の開発に繋げる。
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