研究課題/領域番号 |
17H03367
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
山本 俊哉 明治大学, 理工学部, 専任教授 (50409497)
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研究分担者 |
藤賀 雅人 工学院大学, 建築学部(公私立大学の部局等), 助教 (10593197)
新井 信幸 東北工業大学, 工学部, 准教授 (20552409)
谷下 雅義 中央大学, 理工学部, 教授 (30242001)
仁平 典宏 東京大学, 人文社会系研究科, その他 (40422357)
宮城 孝 法政大学, 現代福祉学部, 教授 (70276864)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 様々な解釈が可能な復興計画 / 計画調整を行う専門家 / 一筆単位で指定した災害危険区域 / 戸建・長屋形式の災害公営住宅 / 土地区画整理事業の見直し / 自主的な住宅再建 |
研究実績の概要 |
本研究は、過大なインフラ整備に伴い仮設住宅居住の長期化を招いた陸前高田市の行政・住民双方の取り組みと専門家の関与を時系列的に整理・分析し、復興事業の相互関係を検証した。また、仮設住宅の自治会長等インタビュー調査を行い、仮設住宅居住者の住宅再建に関する意識の変化や復興事業に関する意見を把握した。さらには、比較対照群の10市町地区の復興プロセスや宮城県における被災者の復興支援の検証等を進めた。これらを通して明らかになった陸前高田市の復興プロセスの特異点は、以下のとおりである。 陸前高田市の復興計画の策定には多くの住民代表が参加し、計画素案説明会も開催されたが、いずれも意見表明にとどまり、意見調整が行われないまま、様々な解釈が可能な復興計画が策定され、各種事業が導入された。計画策定期には都市計画の専門家が加わっていたが、事業導入期に入ると計画調整を行う専門家が事実上いなかった。その結果、相互の脈絡がなく、バラバラに事業化が進められた。災害危険区域は一筆単位で指定するという極めて稀な制度運用が行われた。他市町では戸建や長屋形式の災害公営住宅が集団移転地区内に建てられたが、陸前高田市ではその住民要望は実現せず、結果として多くの空き住戸を抱えている。土地区画整理事業は、年を追って区域が拡大し、嵩上げの高さも高くなった。土工量は巨大になり、工期も長く,事業費も当初から200億円以上増加したが、事業を大幅に見直すことなかった。一方、自主的な住宅再建の動きが震災直後から活発に行われ、被災地でもその戸数は最大規模となり、土地区画整理事業区域内には利用の見込みのない宅地が多く生まれている。 これらの背景には、震災復興の事業制度や自治体のガバナンスの問題があるが、他市を比較しながら復興プロセスを検証することは、今後の復興支援に関わる専門家が果たすべき役割を明らかにする上で重要と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、当初の計画通り、陸前高田市の復興プロセスに関する既往研究や入手済みの関係資料をもとに、研究協力者行政・住民双方の取組みと専門家関与を時系列上に整理した。復興事業の相互関係の整理や個々における行政・住民双方の取組みの分析は途上にあるが、次年度予定していた関係住民・専門家にインタビューを前倒しで実施した。 仮設住宅団地の自治会長等インタビューは、住田町を含む20数団地で実施し、震災後から毎年実施してきたインタビュー結果と照らし合わせ、生活再建や復興事業に関する意識の変化や意見を把握した。これまでのアンケート結果との比較は、次年度実施するアンケート結果を踏まえて行うこととした。 比較対照群の他市町・地区の関係者インタビューは、当初の計画通り、岩沼市と女川町と新地町の他、次年度実施予定だった地区を含めて合計10の市町・地区を対象に実施し、仙台市荒浜地区や東松島市あおい地区等では、現地にて関係住民のインタビューも実施した。 仮設住宅からの生活再建のモデルとして仙台市最大のあすと長町仮設住宅から災害公営住宅への居住プロセスと専門家の役割を検証した他、居住者のアイデンティティ回復のきっかけやコモンミール運営の意義と持続性の課題について明らかにした。また、岩沼市玉浦西地区におけるコミュニティガーデン活動を通した地域運営再生のプロセスや塩釜市の災害公営住宅の居住初動期におけるコミュニティ形成と阻害要因を明らかにした。 他都市との人口等のデータ解析は、データ量が少ないため整理・比較にとどまったが、南三陸町と石巻市の旧町別人口変化率と比較して震災から1年で5%以上減少した地域では一層減少していたことを明らかにし、税収については土地にかかる固定資産税の減少は東北三県では岩手県が著しく、大きく減少している市町村は家屋にかかる固定資産税も減少しているデータを把握した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方策は、一筆単位の災害危険区域や災害公営住宅に戸建形式を採用しなかったこと等の陸前高田市の特異性を念頭に、行政と住民双方の取組みと専門家の関与についての整理・分析をすすめる。また、仮設住宅居住者アンケートを実施して生活再建や復興事業に関する意識の変化を比較・分析し、陸前高田市と他市との人口や税収、地価等のデータ解析を進める。 土地区画整理事業については、高田・今泉地区の事業規模がなぜ当初計画から拡大し、見直し時になぜ縮小できず、住民間の亀裂を生んだのか、計画策定期に遡り、行政担当者・事業担当者(UR)、まちづくり協議会やサイコウ会等の関係住民・専門家にインタビューを重ねて検証するとともに、住民合意プロセスと専門家関与について女川町を中心に、大船渡市中心市街地や気仙沼市鹿折地区、山田町等と比較・分析する。 防災集団移転促進事業については、高台移転の住宅再建に集中した地区と災害危険区域の土地利用計画まで取り組んだ地区を対比的にとらえ、それぞれ住民主導型と行政主導型とその中間型の復興プロセスと専門家関与を比較分析する。事例分析は、災害からの集落コミュニティの再生における専門家の役割に着目し、誰が、いつ、どのように行ったかを把握して比較する。 陸前高田市内については、特に、同じ避難所と仮設住宅で過ごした被災者が主体的に立ち上げた要谷・長洞・その他広田地区の住民協議会に着目し、それらの相互関係や連携体制、他地区に及ぼした影響などを解明する。また、これら住民協議会の防潮堤建設計画に関する取り組み、その高さの決定方法、災害危険区域の土地利用計画に関する取り組み等を比較・分析する。 他市町については、特に、震災前からの行政側の取り組み、復興計画・事業の将来像の提示方法、行政側の専門家の関与、事業の進捗状況、高台移転後のコミュニティ形成の取り組み等に着目して比較・分析する。
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