昨年度以降,火災旋風の発生条件を検討するための風洞実験を実施してきた.これは,風洞内に設置したL字型火源の周辺の流れ場を可視化し,その様子を高速度カメラで記録した画像のPIV(Particle Image Velocimetry)解析を行うことで,床面付近の2次元2成分の流速ベクトルを求めるものである.本年度は,昨年度の検討を通じて明らかになった技術的な課題を修正した上で,流入風速と発熱速度に関する条件を幅広く変化させた実験を行った.こうして拡充された実験データを,これまでに整備した火災旋風の発生確率評価モデルと比較した.この結果,慣性力と重力の比であるフルード数がある条件を満たす場合に火災旋風が発生するという基本的な傾向は一貫していることを確認した. また,市街地における火災旋風の発生可能性について検討するため,いくつか実際の市街地を対象とした延焼シミュレーションを実施した.ここで得られた延焼動態を,上記モデルの入力条件とすることで,火災旋風の発生確率の空間的な分布を調べた.この結果,現代の市街地において火災旋風が発生するには,燃焼領域の広がりが一定以上となることに加え,市街地風の風速が十分低くなることが条件となることが分かった.これは,現代の市街地において延焼火災が発生した場合の発熱密度が,従来の木造家屋が主体であった市街地に比べて低くなっており,浮力(重力)によって火源の上方に形成される上昇流の規模が小さくなっているため,これに対応する流入風の影響(慣性力)も小さくなる必要があったためである.
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