研究課題/領域番号 |
17H03376
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
北上 修 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (70250834)
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研究分担者 |
岡本 聡 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (10292278)
菊池 伸明 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (80436170)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 永久磁石 / 磁化反転 / 保磁力 / 磁壁移動 / 反転核生成 |
研究実績の概要 |
希土類Nd-Fe-B磁石は,電気自動車等の駆動モーターをはじめとして,環境・省エネルギー技術におけるキーマテリアルである.元素戦略の観点からは,Dy, Tb等の元素を含まない重希土類元素フリー磁石の高性能化,特に保磁力の向上が求められている.しかしその実現のためには,第一にNd-Fe-B磁石の磁化機構,ひいては保磁力メカニズムを明らかにすることが必要である. 本研究では,不可逆磁化過程に関する詳細な情報を含むFirst-Order Reversal Curve (FORC) 解析に着目し,商用Nd-Fe-B焼結磁石に適用して磁化過程を調べた.その結果,磁石の磁化の不可逆反転は,零磁場付近の低磁場領域と保磁力近傍の高磁場領域の二つの領域に区分されることが明らかになった.これら二つの領域で起きる磁化過程を可視化するため,ナノサイズの空間分解能を有するX線磁気円二色性(XMCD)顕微分光測定を行った.その結果,低磁場領域の反転では主に多磁区状態における磁壁移動,高磁場領域では主に(観測時間スケールにおいて)多磁区構造を経ない単磁区状態の反転過程が観察された.つまり,上記FORCダイアグラムにおける低磁場,高磁場領域の不可逆反転は,各々多磁区構造における磁壁移動,単磁区構造における反転核生成に支配されていることが明らかになった. 本研究の結果より,FORC解析とナノXMCD顕微分光測定の組合せが,永久磁石材料の磁化過程の解析に極めて有効な手法であることを実証できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
FORC解析という不可逆磁化反転過程解析手法と,ナノスケールの空間分解能を有するXMCD顕微分光技術を組み合わせることにより,永久磁石における微視的な磁化反転過程を調べる手法を確立することができた.さらに着磁磁場の増加に伴い,ある臨界磁場を境に磁区構造は多磁区から単磁区状態に移行し(飽和し),反転過程が磁壁移動型から核生成型に変わることを実験的に示すことができた.
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今後の研究の推進方策 |
残る課題は,多磁区⇒単磁区に移行する臨界磁場,そして飽和状態から反転核が生成する臨界磁場が何に支配されているかを明らかにすることである.本研究課題にあるように,我々はそれらの重要な支配要因が磁性体に作用する局所反磁場であると予想している.今後は,高い空間分解能を有するXMCD顕微分光技術とパルス磁場印加技術を組み合わせ,ナノスケールにおける反転核生成の時間発展過程に取り組む予定である.同時にマイクロマグネティクスシミュレーションを並行して進め,実験との比較からNdFeB磁石における磁化反転過程,そしてそれに及ぼす局所反磁場の影響について検討を進めたい.
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