研究実績の概要 |
界面スピン-軌道相互作用を系統的に制御し、反強磁性体における磁気特性変調に関する学理を構築し、反強磁性体の磁気特性を制御するための新しい手法を提案・実証することを目的としている。本目的を達成するために、本年度は、下記の研究項目を実施した。 (1) 4d, 5d 元素極薄膜被覆がFeRh薄膜の構造に及ぼす影響の評価 昨年度、4d, 5d 元素極薄膜被覆がFeRh薄膜の反強磁性-強磁性相転移温度を上昇させることを明らかにした。その起源として、FeRh薄膜の格子変調の可能性を調べるために、X線回折及びX線逆格子マッピングにより、薄膜面直及び面内の格子定数を評価した。その結果、Pd, Ir, Ptを被覆したいずれのFeRh薄膜に対しても明瞭な格子変調の効果は見られなかった。以上の結果より、4d, 5d 元素薄膜の被覆によって FeRh 薄膜の格子は有意な変調を受けないことがわかり、磁気相転移温度の変化が界面におけるスピン軌道相互作用の変調効果に起因していることが推察される。 2) FeRh薄膜/強誘電体ヘテロ構造における強磁性共鳴測定 昨年度、Rh組成20%のFeRh薄膜が極めて小さな磁気ダンピングを示すことを見出した。本年度はさらに、強誘電体PMN-PTと強磁性FeRhとのヘテロ構造をMBE法により作製し、強誘電体PMN-PTの分極方向を薄膜面に対して上側、下側と反転させた際の強磁性共鳴スペクトルの変調効果を調査した。その結果、PMN-PT薄膜の分極方向に依存した明瞭なFMRスペクトルの 変化が観測された。特に、周波数7.7 GHz においてその傾向が顕著になることが確認された。この分極方向に依存するFMRスペクトルの変調はFeRhの磁気異方性の変調効果と考えることができる。
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