研究実績の概要 |
希土類金属磁性は, 一般的に, 伝導電子によって媒介されたf 軌道局在スピン間相互作用が重要な役割を果たすが, 超高圧下では, 磁気測定の測定限界のため, 未解明問題が多く残っている。最近では、Eu, Sm化合物において価数変化の重要性が指摘されており、実際のところ, 電気抵抗の情報だけで磁性状態に言及することは極めて危険である。 本研究では, 申請者が開発を継続している世界最高レベルの「高圧力下磁気測定技術」を用いて, 希土類単一元素強磁性体に対し磁気転移温度を追跡する精密磁気測定を行い、磁性状態の解明につなげていくことを目的としている。また, 相対論的第一原理電子構造計算による低エネルギー物理の定量解析も合わせて遂行し, 実験結果との比較検討を行い, 希土類強磁性物質科学の新展開を目指そうとしている。 当該年度は、[1]市販のSQUID磁束計に挿入可能なダイヤモンドアンビルセル(DAC)の大幅な改良を行い, 50GPaの圧力領域での磁化測定・交流磁気測定技術が現実味を帯びてきた。準備段階に熟練度を要する作業工程が存在しており、その部分を治具の利用によっていかに簡便にするかが今後の改題である。[2]さらに、SQUIDコイル振動型磁束計を用いた高圧力下磁気測定の測定精度を大幅に向上させることに成功し、同時に新しい検出コイルの導入により測定温度域の拡大にも成功した。[3]また、Dyにおいて、磁気秩序温度の消失を確認することに成功した。Tbについてもほぼ磁気秩序温度が消失するレベルまで実験を遂行した。[4]さらに、磁気信号が小さく、高圧磁気測定の測定対象になっていなかったSmにおいて、加圧による磁化率の上昇を観測し、価数の変化を期待させる実験結果を得た。現在、第一原理計算を基にした電子状態の計算を進めている。[5]Gdを想定した高圧力下における中性子回折実験の実施について、準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
市販のSQUID磁束計を用いた高圧力下磁気測定においては、30GPaを超える圧力領域で論文発表に耐え得る実験データを得るにはもう一息という状況にあるが、実験技術は着実に向上している。また、SQUIDコイル振動型磁束計を用いた高圧力下磁気測定においては、高感度測定を100Kを超える温度域まで拡張することに成功し、高温超伝導体の実験が可能になり、大きな技術的な進展がみられている。前者の測定技術を用いてGd, Dy, Tb, Hoの測定はおおむね目途が立ており、Er, Tmの測定を2019年度に実施する予定である。また、後者を用いて、Smの実験が大きく前進しており、全体的にはおおむね順調に進展していると判断できる。
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