熱流と直交する方向に起電力が生じる「非対角熱電効果」を利用すれば、従来型熱電発電モジュールの短所を克服する実用発電デバイスの実現が期待できる。 前年度までに検討した計算シミュレーションを基に、銅と金属ケイ化物からなる多層膜の作製を最優先で取り組んだ。多層膜中における金属層厚の分率と、多層膜の傾斜角の2つをパラメータとして、最高の出力因子が得られる多層膜デバイスの形状をシミュレーションし、実際に放電プラズマ焼結により多層膜試料を作製した。また、得られた多層膜の微細組織と元素分布を走査電子顕微鏡を用いて精査し、併せて発電特性の評価を行った。 金属粉末とケイ化物粉末を、所定の層厚になるように注意深く焼結治具に導入し、種々の温度と圧力で焼結を試みたところ、銅とシリコンが反応して低融点化合物を形成し、焼結中に融出することが明らかになった。ケイ化物試料の融点より200℃以上低温で焼結しても同様な傾向が見られたことから、銅とケイ化物系の組み合わせを断念せざるを得なかった。 そこで、当初取り組んでいた銅と鉄基ホイスラー化合物を再度対象とし、低温・高圧力下での高密度焼結体の作製を試みた。初めに円盤状に加工した銅板を用いて、ホイスラー合金と交互に積層して焼結したところ、銅板のみが熱膨張して焼結治具を破壊することが明らかになった。次に、銅とホイスラー合金の両方とも粉末を用いて、予め遊星ボールミルで微粉化した粉末を用いて積層体を焼結したところ、設計値に近い積層体が得られた。しかし、ホイスラー合金層の焼結密度が著しく低く、容易に剥離することが明らかになった。次に焼結条件を詳細に検討して、焼結温度・圧力が、840℃・40MPaにおいて充分な焼結密度を有する多層膜の作製に成功した。この多層膜を、所定の角度で切り出し、発電特性を測定したところ、温度差25度において0.56mW/K2mの出力密度が得られた。
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