本研究では、独自に開発した気相を利用する結晶育成法により新規組成の窒化物、酸窒化物、酸化物結晶を育成することにより新規な蛍光体の開発に取り組んだ。得られた蛍光体については、単結晶X線構造解析を行った。また、実用化を目的として粉末試料の合成法の最適化にも取り組んだ。気相による単結晶育成法では、揮発した雰囲気または原料ガスを、シードとしての不揮発性の原料粉末と反応させて結晶成長させる。そのため、雰囲気ガスまたは原料粉末の高温での揮発を圧力および温度をパラメータとして厳密にコントロールする必要がある。圧力および温度を正確に制御できる装置として本経費にて導入した真空加圧炉(島津メクテム株式会社VESTAPVLgr10/10)を用いて、新しい窒化物蛍光体の育成を試みた。 現在までに、九種類の蛍光体単結晶の育成に成功し、物性評価を進めている。特に興味深い材料は、緑色の狭帯域発光を示すSr-Al-Si-N:Eu系蛍光体である。市販品として用いられている赤色蛍光体Sr2Si5N8:Euと類似した構造を持つSr2AlSi4ON7:Euにおいて、Al3+イオンとO2-イオンが選択的に一部のサイトを占有することを単結晶構造解析により初めて明らかにした。この特異的な置換により、Sr2AlSi4ON7:EuはSr2Si5N8:Euよりも優れた化学的安定性を示す。その他の新組成蛍光体としては、La-Si-O-N系緑色蛍光体、Li-Ca- Al-Si-O-N系黄色蛍光体、Ba-Al-Si-N系緑色蛍光体、Ca-La-Si-N系黄色蛍光体の単結晶育成に成功した。また、酸化物系で緑色の狭帯域発光を示す新規蛍光体Sr1-xNax[Li3Al1-xSixO4]:Euを見出し、その結晶構造を明らかにした。
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