研究課題/領域番号 |
17H03394
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 英弘 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (80313021)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電場支援焼結技術 / フラッシュ焼結 / セラミック / 粒界 / 物質輸送 |
研究実績の概要 |
ジルコニア(ZrO2)やハイドロキシアパタイト、イットリア(Y2O3)、Al2O3-YAGコンポジットといった様々な酸化物セラミックスを対象として基礎データの収集を継続すると共に、フラッシュ焼結により得られる多結晶体試料について、通常焼結と比較したときの電場印加に伴って生じる粒界形状、相変態挙動、組成分布の変化を引き続き調査した。特筆すべき成果の一つは交流電場を用いたフラッシュ焼結における、高密度化の指導原理を見出した点にある。透光性を帯びた高密度Y2O3多結晶体を、通常焼結よりも数百度低温かつ1分という短時間で得ることが可能であることを示した。ホール伝導体とされるY2O3においては、その電気伝導率の温度依存性やフラッシュ焼結挙動に複雑な周波数依存性が見いだされたが、その起源を消費電力の立場から、試料の電流応答波形の詳細な解析を通して初めて解明した。こうした解析は、フラッシュ焼結に関する従来研究では考慮されてこなかった点であり、非常に独創性の高い知見であると言える。さらに原子配位や点欠陥構造をXRD・XPS・HRTEM・STEM・EELS等によって多面的に調査し、通常の大気中での焼結では見いだされない非平衡構造が強電場下で導入されることを明らかにした。これらの知見は、フラッシュ焼結における物質輸送促進のメカニズムにおいて重要な因子であると期待される。実際、高温塑性流動試験においてもこれを支持する結果が得られており、多くの従来研究で指摘されてきたフラッシュ焼結における熱的効果に重畳する形で非熱的効果が存在することを示せた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、各種機能・構造酸化物系セラミックスを対象とし、フラッシュ焼結の基礎データを系統的な焼結パラメータ制御の下で蓄積すると共に、フラッシュ焼結に伴う微細組織形成過程を追跡する。特に、粒界形成から緻密化過程における点欠陥生成、物質輸送、相変態などの素過程現象を明らかにし、それらに及ぼすドーピング効果・雰囲気効果を実験的に検証することで、フラッシュ焼結プロセスの物理的描像を得ることを第一の目的としている。これらの実験手法の確立を含め、基礎基盤データを着実に蓄積すると共に、新たな解析手法によってフラッシュ焼結の指導原理を見出しつつある。ここで粒界の原子配位は極めて重要な情報であり、当初予期していなかった複雑な非平衡構造の導入が確認され、今後基礎基盤研究として新たな展開も期待される。また実際に、透光性を帯びた高密度多結晶体の製造にも成功しており、物理的描像の構築から実証実験まで、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度であり、これまでの基礎的知見を総括したフラッシュ焼結の物理的描像を得ると共に、これを有力学会誌に発表する準備を進めている。ここで粒界の原子配位は極めて重要な情報である。特に、当初予期していなかった明確な非熱的効果・非平衡状態が強電場下で実現していると推測から、今後、強電場下でのセラミックスの動的挙動として新たな物理として取り組むべき課題への嚆矢となる可能性がある。また、難焼結性材料や機能性材料への応用展開を視野に入れた実証実験を行う計画である。特に研究計画に大きな変更は無いと考えている。
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