研究課題/領域番号 |
17H03406
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
倉本 繁 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 教授 (10292773)
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研究分担者 |
小林 純也 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 助教 (20735104)
伊藤 吾朗 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 教授 (80158758)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 構造・機能材料 |
研究実績の概要 |
本研究では、加工誘起ナノクラスターにより強化したアルミニウム合金を対象として、従来法で強化した際に問題となる環境脆化を抑制するための研究を行う。 本年度は、従来の市販Al-Zn-Mg-Cu系の7075合金よりもZn添加量を増加させたAl-8%Zn-2%Mg-2%Cu系合金、また7075合金とは合金系が 異なるAl-Cu系の2219合金、Al-Cu-Mg系の2024合金を用いて、強度特性を調査した。Al-8%Zn-2%Mg-2%Cu系合金に関しては、溶体化処理条件や圧延率を変化させた冷間圧延材を作製し、機械的特性および環境脆化特性の評価を実施した。本系合金圧延材は60-70%の冷間圧延により高い引張強さを有するとともに、良好な耐環境脆化特性を有することを明らかにした。また、加工前の合金元素の固溶量の影響を検討するため、焼入れ温度を変化させた溶体化処理も実施し、試料中の溶質固溶量が強度および環境脆化特性に影響を与えることを確認した。2219合金および2024合金に関しても、冷間圧延材を作製し、機械的特性および環境脆化特性の評価を実施した。Mgを含まない2219合金90%冷間圧延材は、良好な機械的特性を有しながら、環境脆化を生じないことを明らかにした。また、Mgを含む2024合金は90%圧延材がほとんど延性を示さなかったため、60-70%圧延材を対象として検討を実施したところ、2219合金よりも冷間加工率が低いものの優れた強度特性を有することが分かった。しかし、2024合金は従来法で強化した場合には環境脆化を生じないのに対し、加工誘起ナノクラスターにより強化した場合には条件によっては若干の環境脆化を生じることがあることも判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、前年度の成果をまとめながら、引き続き高強度化に及ほす試料組成およひプロセス条件の影響について広い範囲で検討することが目的であり、ほぼ予定通りに推進することができた。 加工前の合金元素の固溶量の影響を検討するため、焼入れ温度を変化させた溶体化処理も実施し、試料中の溶質固溶量が強度および環境脆化特性に影響を与えることを確認した。また、加工による組織形成に関しては、透過電子顕微鏡による組織観察やX線回折による転位密度の測定に関して評価を一部実施した。Al-Cu系、Al-Cu-Mg系に関しては、Cu添加量の違いやMg添加の有無が、強度特性や環境脆化特性に大きな影響を与えることを明らかにすることができた。今後、この溶質元素の種類や添加量が強度特性および環境脆化特性に及ぼす影響を重点的に解析することにより、本研究の目的を達成できるものと考えている。 また、本年度は、Al-Zn-Mg-Cu系の成果を論文発表するとともに、Al-Zn-Mg-Cu系、Al-Cu系、Al-Cu-Mg系合わせて、国内学会の講演大会において計7件の発表を実施した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29,30年度の結果に基づき、溶質元素の種類や固溶量が圧延後の機械的特性および環境脆化特性に及ぼす影響を詳細に解析する。具体的には、本年度よりさらに検討対象とする合金組成を広げ、Al-Mg-Si系合金についても冷間加工により加工誘起ナノクラスターを生じさせて強化した場合の環境脆化特性を調査するとともに、Al-Zn-Mg系、Al-Cu(-Mg)系を対象として透過電子顕微鏡による組織観察やX線回折による転位密度の測定を進め、合金元素や加工条件の影響を明らかにする。微視組織と、強化機構、環境脆化機構との関係についても検討する。まず、加工による結晶組織の変化、転位密度の変化、動的回復、動的再結晶等の構造変化に加え、加工中に同時進行する合金元素の拡散も加味した組織形成過程を検証する。ここでの拡散には、通常の体拡散、高速拡散(転位芯拡散、粒界拡散)の他、 塑性変形起因の拡散についても考慮して検討を実施する。次に、そのように形成された微視組織と機械的特性との関係について包括的な検討を行い、高強度化および環境脆化の抑制に必要な金属組織の条件を明らかにする。
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