研究課題/領域番号 |
17H03410
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
柿沼 克良 山梨大学, 大学院総合研究部, 特任教授 (60312089)
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研究分担者 |
内田 誠 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (10526734)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 固体高分子形燃料電池 / カソード触媒 / 酸化物 / 白金 / 酸素還元活性 |
研究実績の概要 |
高活性と高耐久性を備える先進的新規固体高分子形燃料電池用電極触媒の創製を目標に研究を進めている。本年度は新規担体等とPt担持触媒にて電気伝導度と触媒活性の大幅な向上に成功した。 触媒界面をSTEM-EELSにて詳細に解析したところ、Pt周辺にある担体(n型半導体)の構成元素が還元されていることを初めて明らかにした。Ptの担持量の増加により電極触媒の電子伝導度が向上する一因と考えられる。STEM-EDXにて界面にてPtと担体構成元素が相互拡散していることを明らかにすると共に、XPS及びHAXPES測定にてその界面にて合金相が形成されていることを見出した。ショットキー障壁による界面抵抗が形成しやすい貴金属担持酸化物担体(n型半導体)貴金属担持半導体酸化物でも高い触媒活性が得られることを明らかにした。なお、その合金相の形成はPtと担体との格子のミスマッチも緩和させ、Ptが酸化物に対して強い化学結合のもとで配向して担持させることを可能にし、凝集・脱落を抑制(耐久性の向上)に寄与することも確認した。 一方、固体高分子形燃料電池の電極触媒には高分子電解質バインダーの被覆が必要である。低加速電圧TEMにて上記触媒を評価したところ、バインダーが均一に被覆することを新たに見出した。この性質を利用することで、バインダーの添加量をこれまでの5分の1以下にすることに成功し、酸素拡散に伴う過電圧の緩和と質量活性の大幅な向上も見出すに至った。 また、上記触媒にてガス吸着に伴う抵抗変化があることを見出し、固体高分子形燃料電池の劣化要因となる逆電流を抑制する機構(大気抵抗スイッチングメカニズム)新たに提唱するに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の目標であるPt‐酸化物界面の制御による触媒活性の向上及び耐久性の向上は順調に進み、新たな触媒を提案した。この成果は本研究提案段階での計画に沿った成果である。計画段階では、触媒とバインダーとの相互作用は小さく、ガス雰囲気による電気伝導度の変化も少ないと予想していた。しかし、低加速電圧TEMでの評価により、酸化物半導体上では高分子電解質バインダーが均一に被覆する性質を新たに見出し、バインダーと担体との強い相互作用があることが見出された。セル性能を詳細に調べるとその性能は酸素分圧の影響を受けており、バインダーの有無に関わらず、酸化物担体に担持されたPt触媒ではガス吸着の影響を受けることも新たに見出した。この成果は、研究計画段階で注目していたPt-酸化物担体の界面制御だけでなく、Pt-酸化物担体‐気相界面(三相界面)を包括して設計することの重要性を明らかにしたことになる。 その三相界面の性質を利用し、上記触媒をアノードに利用すれば、固体高分子形燃料電池の劣化要因となる逆電流を抑制することが可能であることも確認した。このメカニズムを大気抵抗スイッチングメカニズムと命名すると共に、高活性と高耐久性を備える先進的新規固体高分子形燃料電池用電極触媒の創製の新たな設計指針を提唱するに至っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後、酸化物担体上にPtを担持した触媒について、三相界面の制御を視野に触媒活性の向上と耐久性の向上を図る。さらに、カソードだけでなく大気抵抗スイッチングメカニズムを応用してアノード触媒の開発にも着手する。これまで合成した触媒の電子構造と、微細構造を解析し、新たな高活性と高耐久性を備える先進的新規固体高分子形燃料電池用電極触媒の設計指針の確立を目指す。
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