研究課題/領域番号 |
17H03414
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
多根 正和 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (80379099)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 相転移 / 弾性論 / チタン合金 |
研究実績の概要 |
生体材料・構造材料として近年注目されている不安定なbcc系Ti(チタン)合金にて形成される六方晶構造のω相は、本来は避けるべき脆化および弾性率増加を引き起こすため、その形成メカニズムと力学特性との相関関係に対する理解が、材料開発に不可欠である。本年度は、無拡散で観測不可能なほど瞬時に変態が生じる非熱的ω変態と室温近傍での時効に伴うDiffuse ω構造形成との相関関係の解明を目的として、研究を実施した。まず、アーク溶解法と光学的浮遊帯域溶融法によって作製したbcc安定化元素濃度であるV濃度の異なる3組成のTi-V合金単結晶から、ラウエ法および放電加工機を用いて、電磁超音波共鳴法による音響共鳴振動の共鳴周波数および内部摩擦測定用の数mm角程度の直方体試料を切り出した。得られた直方体試料に対して、bcc相単相領域の1273 Kで1 hの溶体化処理を施した。溶体化処理直後の試料に対して、電磁超音波共鳴法を用いて、室温から10 Kまでの低温の温度域の冷却および加熱過程において、音響共鳴振動の共鳴周波数および内部摩擦の温度依存性を測定した。さらに、低温での共鳴周波数および内部摩擦測定を実施した試料に対して、室温での10日間の時効処理を施した。室温での時効処理後の試料に対して、再度、低温での共鳴周波数および内部摩擦測定を実施した。これにより、低温での非熱的ω変態に伴う共鳴周波数変化(弾性率変化)と室温近傍での時効によるDiffuse ω構造形成に伴う弾性率変化とを比較することで、非熱的ω変態と室温時効に伴うDiffuse ω構造形成との相関関係を明らかにした。さらに、低温での内部摩擦の温度依存性を、デバイモデル(デバイの式)を用いて解析することにより、ω変態のカイネティクスを支配する熱活性化過程の活性化エネルギーを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
bcc構造の安定性の異なるTi-V合金の単結晶試料に対して、電磁超音波共鳴法を用いて、室温から10 Kまでの低温の温度域の冷却および加熱過程において、音響共鳴振動の共鳴周波数および内部摩擦の温度依存性を測定した。さらに、低温での非熱的ω変態に伴う共鳴周波数変化(弾性率変化)と室温近傍での時効によるDiffuse ω構造形成に伴う弾性率変化とを比較することで、非熱的ω変態と室温時効に伴うDiffuse ω構造形成との相関関係を明らかにすることができた。加えて、低温での内部摩擦の温度依存性を、デバイモデルを用いて解析することにより、ω変態のカイネティクスを支配する熱活性化過程が存在することを実証し、その活性化エネルギーの値を算出することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
室温近傍での様々な温度下において、時効に伴う弾性率変化を測定し、時効温度がω相の形成挙動に及ぼす影響を明らかにする。また、時効後のX線回折測定を実施する。さらに、本年度での成果に基づき、内部摩擦測定によって得られたω変態のカイネティクスを支配する熱活性化過程とω変態の変態速度とをつなぐω変態理論(変態の速度論)を構築する。さらに、非熱的ω変態と室温近傍でのDiffuse ω相との相関関係を明らかにするために、両者の相安定性に着目した新たな相転移論を構築する。
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