本年度は(1)2種の超分子科学的相互作用部位をもつ新たなポリマー材料、並びに(2)酵素を固定した刺激応答性ポリマー又はヒドロゲルを合成した。以下にこれらの研究成果概要を示す。 (1)超分子科学的な相互作用部位を持たないフィルムは非常に脆いのに対し、水素結合部位を持つフィルムは柔軟性を示し、水素結合と配位結合の両者を導入したフィルムの破壊エネルギーは、水素結合部位のみを持つフィルムよりも4倍高かった。このフィルムは優れた自己修復性と形状記憶特性を示すことがわかった。 (2)星型ポリイソプロピルアクリルアミド(star pNIPAM) が LCST 以上で効率良く凝集体を形成することを利用して、star pNIPAMに固定されたペルオキシダーゼ(HRP)とグルコースオキシダーゼ(GOx)の異種酵素間カスケード反応を促進させることに成功した。分岐型および直鎖型pNIPAMにHRPを結合させることで、両系でLCSTが高温側にシフトした。2種酵素が関与するカスケード反応の酵素濃度依存性を検討した結果、37℃、0.02nM以下の酵素固定star pNIPAMシステムにおいて、天然の酵素の反応速度を上回ることを見出した。なお、25℃ではこのような挙動が見られなかった。遊離の酵素では、酵素の濃度を下げることで溶液中の酵素分子間の距離が離れ、カスケード反応の速度が低下するのに対し、star pNIPAMに導入された酵素では、pNIPAMの凝集体形成に伴い、異種酵素が近距離に保持できることを示唆している。また、シトクロムP450を導入したヒドロゲルでは、ゲルを構成する共重合ユニットに基質との相互作用部位あるいは反発部位を導入することで酵素反応速度を自在に制御できることを見出した。
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