研究課題
平成30年度に主に取り組んだ内容を以下のように箇条書きに示す.(1)純度の異なる2種類の工業用純チタン板を用いて,種々の負荷経路における加工硬化挙動の結晶塑性モデリングを行った.具体的には,単調引張,単調圧縮,反転負荷,そして二段階負荷時の挙動を対象とした.その結果,適切に材料パラメータを同定することにより,いずれの工業用純チタン板においてもその挙動を良好に再現することに成功した.特に,圧縮から引張へ負荷方向を反転した際に生じる加工硬化率の急激な変化は,素材の純度によって程度が異なるが,解析によりその違いを精度良く再現できた.またこのときの双晶活動量の違いも良好に予測できた.(2)結晶塑性モデルにより,工業用純チタン板の時間依存変形挙動のモデル化を行った.その結果,すべり系と双晶系で異なるひずみ速度依存係数を設定することにより,双晶活動量のひずみ速度依存性を定性的に再現することに成功した.このことから,本材料の時間依存変形を適切にモデル化するためには,すべり系と双晶系での速度依存特性を明瞭に区別することが重要であることを明らかにした.また本モデルを用いて,本材料の応力緩和挙動およびクリープ挙動の再現にも成功した.(3)結晶塑性解析を用いた板材成形シミュレーション技術を開発した.具体的には,まず拡張テイラーモデルに基づいて,一積分点に複数の結晶方位を埋め込むことで一要素でも多結晶体を表現できる枠組みを構築した.続いて,工具と被加工材との簡便な接触アルゴリズムを定式化,実装した.さらに,並列計算アルゴリズムを導入するとともに解析精度を可能な限り保ちつつアルゴリズムを効率化することに成功した.以上の取り組みにより,円筒深絞り成形解析を現実的な解析時間で実行することに成功した.
2: おおむね順調に進展している
平成30年度当初の研究実施計画で挙げた,(1)純チタン板の種々の負荷経路における加工硬化挙動と時間依存変形のモデル化を行う,(2)円筒深絞り成形を対象として結晶塑性モデルを用いた有限要素解析が実行できるプログラムを開発する,(3)円筒深絞り成形解析を現実的な時間で解析できるように,計算の高速化を図る,という項目を順調に遂行できた.以上の結果を総合的に鑑みて,【おおむね順調に進展している】と判定した.
これまでの研究が順調に進展していることから,平成31年度も当初の予定通りに研究を推進する所存である.具体的には,平成30年度に開発したプログラムを用いて,結晶塑性モデルを用いた塑性加工解析を行う.次の二つのプロセスに着目して研究を進める.(1)純チタン板では顕著な変形異方性に起因して,円筒絞り成形を行うと成形品の縦壁高さが周方向で不均一になることが知られている.一方で,従来の材料構成式ではこの縦壁高さの不均一性を高精度に予測することができないのが現状である.そこで,本研究課題で開発してきた結晶塑性モデルを用いて純チタン板の円筒深絞り成形解析を行うことで,最終成形品形状の高精度な予測を目指す.また,純チタン板では変形モードによって双晶活動度が大きく異なることから,成形品の部位によって集合組織が異なる可能性がある.そこで,実験および解析によりそのことを検証するとともに,双晶活動が深絞り性に及ぼす影響を数値的に調査する.(2)純チタン板は顕著な時間依存スプリングバック挙動を示すことが知られている.その発現メカニズムとして応力緩和やクリープ挙動が挙げられる場合が多いが,その詳細は明らかとなっていない.そこで,本研究で開発した結晶塑性モデルを用いて純チタン板の引張曲げ成形解析を行い,時間依存スプリングバック挙動の発現メカニズムを検討する.具体的には,時間依存スプリングバック発現時の変形が応力緩和やクリープでどこまで説明可能か,またその駆動力が何なのかを解析的に明らかにすることを目指す.(3)最後に本研究を総括することで,本研究で開発した技術の今後のさらなる適用範囲の拡大と残された課題を検討する.
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すべて 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 2件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 5件、 招待講演 5件)
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