研究実績の概要 |
本研究では,太陽電池材料として期待されている半導体SnSをモデルとして,化学ポテンシャルを積極的に制御することで, 成膜および界面構造制御のプロセスを確立することを目的とした. 具体的には, Sn とMoS2, Zn とSnS2 の反応拡散を利用したSnS の成膜を検討した.後者の系で説明すると,Zn-Sn-S2 系化学ポテンシャル図から, Zn/SnS2 積層構造を作製した場合, この界面は熱力学的に安定ではなく,平衡状態に移るに伴い, SnS2 からZn に硫黄が移動するように反応拡散が起こり, ZnS とSnS が平衡したヘテロ界面が期待できることが期待できる. ソーダライムガラス上にDCスパッタリングにより成膜したSn 薄膜と硫黄粉末を石英管に真空封入し, Sn 側温度と硫黄側温度をそれぞれ制御して熱処理することで SnSx 薄膜を作製した.続いて, その薄膜上にDC スパッタリングによりZn を成膜し, Zn/SnSx 積層膜を作製した. Sn/MoSx積層膜についても同様に, 硫化したMo 薄膜上にSnを成膜することで作製した. 熱処理前後のZn/SnSx 積層膜断面のSTEM-DF像とEDS ラインスキャン結果から,熱処理前ではZn/SnS2/SnSの積層構造であったのに対し, 熱処理後ではZnS/SnS/SnS2/SnSと積層構造が変化した. このことから, ZnとSnS2の反応拡散によりZnSとSnSが生成し, SnSx 薄膜中の硫黄の化学ポテンシャルを制御できることが示唆された. 一方, Sn/MoSx 積層膜については, 熱処理によるSnS の生成が示唆されたが, その昇華性の高さからSnSの成膜が困難であることが分かった. 以上2 つの系の実験から, 反応拡散を利用することでSnSx 薄膜中の硫黄の化学ポテンシャルを制御できることが分かった.
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