研究課題/領域番号 |
17H03440
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
内田 博久 金沢大学, 自然システム学系, 教授 (70313294)
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研究分担者 |
田村 和弘 金沢大学, 自然システム学系, 教授 (20143878)
春木 将司 金沢大学, 機械工学系, 准教授 (90432682)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 製膜 / 有機薄膜 / 噴霧晶析 / 超臨界二酸化炭素 / 薄膜設計 / テトラセン / 溶解度 |
研究実績の概要 |
超臨界二酸化炭素利用の噴霧晶析法により得られるテトラセン薄膜の結晶粒特性に及ぼす操作因子(①基板表面状態[自己組織化単分子膜(SAM)(ヘキサメチルジシラザン,オクチルトリクロロシラン,オクタデシルトリクロロシランおよびフェネチルトリクロロシラン)],②噴射距離,③噴射時間,④基板温度)の影響を調査した。その結果,表面処理により薄膜トランジスタのキャリア移動度が向上した。これは,表面処理により基板の自由エネルギーが低下(基板表面の平滑化)し,基板表面上での分子の表面拡散が促進され緻密な薄膜を形成したためである。つまり,テトラセン薄膜創製に対して,基板表面処理は非常に有効であることが示された。また,噴射距離の増加に伴い,島状から樹枝状へ結晶粒の形態が変化した。これは,噴射距離の増大に伴う溶体濃度の低下による物質移動過程の減少により説明できる。次に,基板温度の増加に伴い,基板上の結晶粒密度の減少,結晶粒サイズの増大及び結晶粒形態が島状から樹枝状への変化が生じた。噴射時間の変化により得られた結晶粒の成長速度及び噴射距離と基板温度を変化させた結果を晶析工学の観点から解析を行ったところ,噴射距離と基板温度は結晶粒成長の成長機構(律速段階)に影響を与えることが判明し,緻密かつ結晶粒界の少ない良好薄膜を創製する最適値(閾値)が存在ことわかった。つまり,SAM処理した基板に対して,本研究で明らかになった基板温度と噴射距離の最適値を用いることにより良好な製膜が可能となる指針が得られた。 さらに,我々が開発した「紫外可視分光光度計を利用した飽和溶解圧力探索法」により温度353.2及び373.2 K,圧力15~23 MPaの超臨界二酸化炭素に対するテトラセンの高精度な溶解度を蓄積した。さらに,半経験式であるChrastil式およびPredictive SRK状態方程式に基づく熱力学モデルより得られた溶解度の良好な計算が可能であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は,以下の二つの項目を検討したことから,それぞれの現在までの進捗状況を評価する。 (1) 本技術による有機製膜に及ぼす種々の操作因子の影響の解明 平成29年度は,超臨界二酸化炭素利用の噴霧晶析法により得られるテトラセン薄膜の結晶粒の粒径・形態・結晶構造・分子配向性に及ぼす操作因子(① 基板表面状態[自己組織化単分子膜(SAM)(ヘキサメチルジシラザン,オクチルトリクロロシラン,オクタデシルトリクロロシランおよびフェネチルトリクロロシラン)による基板表面処理],② 溶質溶解温度,③ 溶質溶解圧力,④ 噴射距離,⑤ 噴射時間,⑥ 基板温度)の影響を系統的に調査し,本技術による有機薄膜機構の解明に繋がる基礎データの蓄積を行い,薄膜設計の指針を明らかにする計画であった。その結果として,① 基板表面状態,④ 噴射距離,⑤ 噴射時間,⑥ 基板温度が薄膜創製に及ぼす影響については研究計画通りに進捗し,本技術による有機薄膜設計への指針が得られたが,② 溶質溶解温度,③ 溶質溶解圧力の影響について検討を行うことができなかったため,次年度に早急に実施する必要がある。 (2) 超臨界二酸化炭素に対する有機半導体材料の溶解度の測定とモデル開発 平成29年度は,我々が開発した「紫外可視分光光度計を利用した飽和溶解圧力探索法」により温度353.2及び373.2 K,圧力15~23 MPaの超臨界二酸化炭素に対するテトラセンの高精度な溶解度の測定が可能であったことより,研究計画通りの進捗であると評価できる。さらに,研究計画通りに,半経験式であるChrastil式およびPredictive SRK状態方程式に基づく熱力学モデルより得られた溶解度の相関を試み,これらのモデルの溶解度計算への有用性を示したことから,研究計画通りの進捗であると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 本技術による有機製膜に及ぼす種々の操作因子の影響の解明 平成29年度に実施できなかった項目である,超臨界二酸化炭素利用の噴霧晶析法により得られるテトラセン薄膜の結晶粒の粒径・形態・結晶構造・分子配向性に及ぼす「溶質溶解温度」及び「溶質溶解圧力」の影響について平成30年度に早急に実施する。 次に,有機半導体材料としてTIPSペンタセンを用いる。基板は,種々のSAM処理により表面エネルギーや有機半導体材料との親和性を変化させ,薄膜創製に及ぼすSAM処理(基板表面状態)(ヘキサメチルジシラザン,オクチルトリクロロシラン,オクタデシルトリクロロシランおよびフェネチルトリクロロシラン)の影響を検討する。次に,本技術で創製される有機薄膜特性に及ぼす操作因子である「溶質溶解温度」,「溶質溶解圧力」,「噴射距離」,「溶体噴射時間」および「基板温度」の影響を系統的に調査する。 (2) 超臨界二酸化炭素に対する有機半導体材料の溶解度の測定とモデル開発 平成30年度には,我々が開発した「紫外可視分光光度計を利用した飽和溶解圧力探索法」により温度353.2及び373.2 K,圧力15~23 MPaの超臨界二酸化炭素に対するTIPSペンタセンの高精度な溶解度の測定を行う。さらに,半経験式であるChrastil式およびPredictive SRK状態方程式に基づく熱力学モデルにより,得られた溶解度の相関を試みる。この際,上記の状態方程式,溶液論及び半経験式に量子化学を加味した新しい熱力学モデルの開発を試みる。
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