研究課題/領域番号 |
17H03454
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
則永 行庸 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (00312679)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | バイオマス / ガス化 / 反応機構 / 反応速度モデル |
研究実績の概要 |
多成分が混合するバイオマス熱分解ガスの計測手法を確立するために、発生ガスの分析系への導入、すなわちサンプリング手法について検討した。サンプルの吸着を抑える表面処理を内壁に施したキャピラリを用いることにより、バイオマス熱分解反応器(1bar)から、20 mbar程度まで減圧、その後さらに、質量分析計チャンバーの0.001 mbar程度まで減圧して四重極質量分析器を用いて分析した。 このとき、高真空の分析部へは、バリアブルリークバルブ(VLV)を介して試料ガスを導入した。微調節が可能なVLVによっても、常圧から高真空(分析時で約0.001 mbar)へ一段の調節では、導入ガス分圧変動等に伴う系内真空度の変動が著しい。試料ガスの一部をキャピラリを介して下流側を減圧してサンプリングし、二段階で減圧することで、安定した試料ガス導入が可能となった。その結果として、測定中のVLVの開度調整は不要であった。加えて、イオン化条件最適化によるフラグメンテーション回避についても検討した。 酸化剤(酸素、水蒸気)導入量とタール分解特性の関係を、ガス化温度や揮発成分反応器内 滞留時間の影響も含めて系統的に調査し、いまだ不明な点の多いタール分解機構を調査した。これにより、タールを完全分解するために最小限必要な酸化剤の量を見極めるとともに、生成ガスの組成から化学エネルギー回収率を評価し、本リアルタイム計測による酸化剤導入量の精密制御がもたらすガス化効率向上度についても検討した。 タールを構成する個々の多環芳香族化合物の転換率と酸化剤導入量との関係を定量的に検討した前例はなく、本研究によって初めて明らかにできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
バイオマス熱分解ガスの分析法の開発については、予定していた目的にほぼ合致した進捗状況であると判断される。また、本研究で得られたデータは、バイオマス気相反応を網羅する1万程度の素反応から構成される大規模詳細化学反応速度モデルによる反応シミュレーションも援用することで、タール分解の分子、ラジカル反応レベルでの理解をもたらし、反応機構の理解に基づいた合理的ガス化炉運転や反応速度モデルベースプロセス最適化技術基盤の確立にも活用できると期待できる。 さらに、研究の過程で、バイオマスの二次熱分解を定量的に記述するには既存のデータベースにないリグニン由来のモノリグノールの詳細化学反応モデルを、追加で構築する必要があることを指摘した。 そこで、遷移状態理論に基づき、モノリグノール二次熱分解の素反応速度定数を量子化学計算によって推定する一連の研究を展開した。これにより、素反応数192個からなるモノリグノール二次熱分解に関する詳細化学反応速度モデルを新たに提案し、これまでの、バイオマス気相反応モデルの精度向上にも成功した。また、石炭の熱分解生成物の測定にも本研究で開発した手法を適用し、論文としてまとめた。
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今後の研究の推進方策 |
タールに含まれる高分子量成分は、環境汚染物質であるススあるいはPM(パティキュレートマター)の前駆体であり、これらの計測も限界まで環境負荷を低減したクリーンなバイオマスガス化を実現する上で極めて重要である。 管状反応器を用いたバイオマスガス化試験で得られる生成ガスを、高分子量成分も含めて計測する。既存の文献データーや化学平衡計算に基づく推算結果等の比較を通じて測定結果の妥当性について検討する。 その後、タールを含む生成ガスの特性把握に基づいて、酸化剤(酸素、水蒸気)導入量とタール分解特性の関係を、ガス化温度や揮発成分反応器内滞留時間の影響も含めて系統的に調査し、いまだ不明な点の多いタール分解機構を解明する。 これにより、タールを完全分解するために最小限必要な酸化剤の量を見極めるとともに、生成ガスの組成から化学エネルギー回収率を評価し、本計測による酸化剤導入量の精密制御がもたらすガス化効率向上度を評価する。タールを構成する個々の多環芳香族化合物の転換率と酸化剤導入量との関係を定量的に検討した前例はなく、本開発計測法によって初めて明らかとなることが期待される。 また、バイオマスガス化に関連する未検討反応について、引き続き量子化学計算に基づく反応機構及び速度定数推算を推し進め、既存の気相反応速度モデルおよびリグニン初期熱分解反応速度モデルと連成し、リグニンの包括的熱分解モデルの構築も目指す。
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