研究課題/領域番号 |
17H03456
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
實川 浩一郎 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (50235793)
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研究分担者 |
満留 敬人 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (00437360)
前野 禅 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (30721154)
水垣 共雄 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (50314406)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 環境調和型反応 / ナノ粒子 / 複合系触媒 / 官能基変換 / 脱酸素反応 / 酸化反応 / ファインケミストリー / 液相反応 |
研究実績の概要 |
従来型の個体触媒では困難であった液相での官能基変換反応に適用可能な高機能固体触媒を開発するために、新しい概念の固体触媒設計のコンセプトの確立を目指してきた。すなわち以下の方針に従って、環境調和型反応を実現する中心命題となる触媒の開発を実施した。(i)規則性構造を有する有機・無機化合物をマクロリガンドとみなし、錯体形成の概念を適用した触媒を設計する。(ii)触媒活性中心近傍に協奏的に働く固体の規則性を利用した分子認識部位を設計する。(iii)金属活性中心近傍の空間が基質接近過程における分子認識部位として働き高い選択性を発現させる。(iv)その空間によって金属種が安定化されて回収再使用を含む効率的な触媒使用を可能にする。 このような設計指針の下、各種の複合系触媒の研究を展開してきた。具体的には金や白金・ルテニウムなどの貴金属ナノ粒子を中心とした活性種近傍を精密設計し、担体として界面における相互作用を期待できるチタニアやセリアなどの金属酸化物とを組み合わせた触媒を合成し、目的とする反応への活性や選択性を検討した。また同時に、各種の分光化学的なスペクトル解析から触媒の活性化状態を検討し、よりパーフォーマンスの高い触媒を調整するべく、PDCAサイクルによって検討して以後の触媒設計に役立てた。 これらの方針のもとに研究を展開してきた結果を進捗状況に示す、従来の固体触媒では困難であった液相中での分子変換を可能にして、温和な条件で高活性高選択性を示す4つの新規な触媒反応を実現した。これらの触媒やさらに同時並行的に進めている固体酸触媒の研究によって、ファインケミストリーに適用できるよりグリーンな触媒を開発できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1年間の成果は各種の学会で多数の報告を行った他、国際的にも有名な雑誌に複数の論文報告を行った。(1)Scientific Reports誌:担体として用いたCeO2の特性を活かしたRuナノ粒子の形成と、そこで得られたRu/CeO2触媒が1級アルコールを含むヒドロキシメチル基に隣接するC-C結合を選択的に切断できた。この反応は水溶媒中でも進行するのが特徴であり、多数の水酸基を含有するバイオマス化合物の有用ケミカルズの変換反応にも適用できた。(2)Catal.Sci.Tech.誌:酸化還元の両方の活性を持つRuナノ粒子を結晶性固体であるマガディアイトに固定化したRu/mag触媒が、フェノール類のtail-to-tailカップリングを選択的に進行させさらに引き続く還元によって効率的にビフェノールを合成できた。この触媒は環境調和型の試剤となる酸素による酸化と水素による還元と、2段階の反応を単一の触媒(実際の活性種としてはRu(III)酸化物種とRu(0)ナノ粒子種)で効率的に進行させる、究極の触媒と見做すことができる。(3)Angew.Chem.Int.Ed.誌:温和な条件でアミド基のカルボニルを脱酸素化してアミノ基に変換する反応を、PtとVのナノ粒子が協奏的に作用する触媒を開発して実現した。この反応が70°C、30atmという温和な条件で選択的に進行させるのに成功した世界で初めての例である。(4)ChemCatChem誌:TiO2上に固定化したAuナノ粒子がH2とCO2からギ酸を生成し、それがTiO2の触媒作用によってアミン類をホルミル化する反応を見出した。貴金属ナノ粒子と金属酸化物の複合系触媒が協奏的な機能を発揮して、従来知られていなかった多段階による触媒作用を見出した。 以上のように環境調和型反応を進行させる新規触媒開発について順調に成果をあげている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では環境調和型反応の開発が大命題であり、温和な反応条件や再生可能資源を原料に用いる反応をターゲットとした研究を展開している。今後もその延長で研究を遂行する計画であるが、上述の設計指針に従って、貴金属を含む後周期遷移金属と各種の金属酸化物を組み合わせた触媒について検討する。具体的には次の2点を中心に研究を展開する。 (1)複合系ナノ粒子触媒の開発:有機・無機の結晶性固体を利用するナノ粒子固定化固体触媒の合成では、AuやPdの場合には還元剤の種類によって粒子サイズをコントロールできることを明らかにした。この成果に基づき、結晶性無機固体の協奏効果を利用した単核金錯体の表面への固定化を経るナノ粒子合成法を、貴金属以外のCoやFeなどの後周期遷移金属にも拡張し、固体表面で安定化できる金属ナノ粒子の合成法を確立する計画である。また、ナノ粒子とマクロリガンドとの接触界面を完全にするためにはマクロリガンドがナノ粒子を包み込む形、すなわちコアシェル構造をとれば、高選択的な反応が可能になる触媒が得られると考えている。このコンセプトにより、活性中心となるナノ粒子を包摂したコアシェル型触媒の合成とその反応特性についても検討する。 (2)環境調和型反応の開発:温和な条件(水溶媒系/水素1気圧/室温)での活性水素種を用いた酸素官能基の変換反応、具体的にはニトロ基のアミノ化、アミド基のアミノ化、スルホキシド基のチオエーテル化、カルボニル基のメチレン化などを、新規に調製した触媒を用いて選択性100%/收率100%を達成するように実施する。これらの脱酸素を中心とする官能基変換反応を、ファインケミストリーの対象となる医薬品や香料など多数の官能基をもつ複雑な有機化合物にも適用する。
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