研究課題/領域番号 |
17H03464
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 大知 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 准教授 (50447421)
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研究分担者 |
酒井 康行 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (00235128)
長谷川 潔 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (20292906)
浦野 泰照 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (20292956)
太田 誠一 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (40723284)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 医用化学工学 / バイオマテリアル / 膵臓がん / ハイドロゲル / 膵液 |
研究実績の概要 |
膵臓がんの切除に伴い,術後に約30%の患者で膵液瘻(膵液漏)が発生する.膵液瘻により漏出した膵液は,消化酵素により周辺臓器を溶解し,全膵切患者のうち約1%は死に至る.膵臓切除の術後は膵液瘻の防止にかかっている.しかし市販の膵液瘻防止材料は存在せず,臨床現場から開発が強く要請されている.本研究では,膵液が体液の中では例外的に弱アルカリ性であることに着目し,新たに膵液と接触することでゲル化するin situ架橋ハイドロゲルを開発する. まず候補材料としてPEG-SH(チオール化ポリエチレングリコール)とPEG-AC(アクリレート化ポリエチレングリコール)のマイケル付加反応を用いた膵液応答ハイドロゲルを開発した。PEG-SHとしては3分岐、PEG-ACとしては4分岐、あるいは3分岐のプレカーサーポリマーを用い,1年目に3分岐PEG-SHと4分岐PEG-ACのゲルがより架橋密度が向上することを確認し以後の検討でこの系を用いることとした.膵液瘻防止材料の重要な性能の一つは,ゲルによって膵液成分であるトリプシンやキモトリプシンなどの酵素の漏出を抑制することにある.2年目にはハイドロゲルの拡散遮断効果に加えてPEG-SH/PEG-ACのゲルから凍結乾燥法によって緻密なゲル網目を持つスポンジを作製したところ,膵分泌酵素であるトリプシンの透過を遮断した.以上のように,有望な材料が得られつつあると考える. 一方で重症度の高いCommon duct離断モデルと中程度のSplenic duct離断モデルを作製し,材料を評価する基盤が整いつつある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膵液瘻防止材料の重要な性能の一つは,膵液成分であるトリプシンやキモトリプシンなどの酵素のゲル中拡散を抑制することにある.昨年度から候補材料として検討してきた3分岐PEG-SH(チオール化ポリエチレングリコール)と4分岐PEG-AC(アクリレート化ポリエチレングリコール)のマイケル付加反応を用いたハイドロゲルを用いて、今年度はタンパク質の拡散実験を行ったが拡散遮断をかけるに現時点では十分な性能を得ることは難しいことが示唆された.これはゲルの反応混合制御の困難性に起因することと考えて,PEG-SH/PEG-ACのゲルから凍結乾燥法によって緻密なゲル網目を持つスポンジを作製した.このスポンジはin situに吸水してゲル化しても緻密な網目を持ち,拡散実験によって分子量466のモデル物質であるインジゴカルミンも分画分子量8000の透析膜よりも低い透過性を示した.さらに膵分泌酵素であるトリプシンの透過を遮断した.以上のように,有望な材料が得られつつあると考える.また昨年度の検討からラットCommon duct離断モデルが3日後に100%の死亡率を示す重症膵液瘻の症状を示すことが明らかになり,さらにSplenic ductを離断する中程度の膵液瘻を引き起こす動物モデルを検討し,動物モデルが安定化しつつある.Common duct離断モデルは胆汁と膵液が混合して致死的な状態になり,臨床を想定すると激しすぎる膵液瘻となる.このためより適切な検討を行う準備も整っている.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である本年度は、ともにPEG-SH/PEG-ACから成る,良好な拡散遅延効果を持つスポンジと、in situ架橋ゲルを組み合わせることで,新たな膵液瘻防止効果を発現することを目指す.ラット膵液瘻モデルにおいて,膵離断面に微量のゲルを投与し,その上からスポンジを投与する.双方が同じプレカーサーポリマーから成るために,ゲルとスポンジの界面はin situ投与により生体中でシームレスに接合することになり一体化したゲルになることが期待できる.またスポンジを圧迫止血の止血材のように用いることで,膵離断面の微小膵管中にゲルを侵入させて,膵断端に強固に蓋をして膵液瘻を遮断することを試みる.一方で,膵液瘻を材料で止めることで,膵液鬱滞が起こり,閉じ込めた膵液が周囲組織にダメージを与えることが予想されるために,ウリナスタチンやナファモスタットなどのプロテアーゼ阻害剤をスポンジあるいはin situ架橋ゲル中に封入することで,効果を最大化する.この際に可視化するツールとして、膵液瘻蛍光プローブを用いる.さらに細胞培養系によって作成したDDSスポンジあるいはDDSハイドロゲルの薬物徐放による効果をin vitroでも検証する.
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