研究課題/領域番号 |
17H03465
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
田中 剛 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20345333)
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研究分担者 |
吉野 知子 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30409750)
前田 義昌 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30711155)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 微細藻類 / 有用物質生産 / オイルボディ / プロスタグランジン / アラキドン酸 |
研究実績の概要 |
本研究では、オイル生産微細藻類Fistulifera solarisが有するオルガネラ、オイルボディへの疎水性化合物の輸送を可能とする“オイルボディ工学”を活用することで、医薬品原料(プロスタグランジン類)の製造プロセスの開発を目的とする。平成29年度においてはプロスタグランジン(PG)の前駆体である高度不飽和脂肪酸の合成経路、細胞内局在、及び輸送経路の解析を行った。まず、F. solarisの培養に用いる栄養塩や培養温度、光照射条件(光量子束密度、および波長)といった種々の培養条件を検討することにより、高度不飽和脂肪酸を高度に蓄積する培養条件を見出した。この時の高度不飽和脂肪酸の蓄積量は、これまで報告された微細藻類の中で最も高い値であった。次いで、高度不飽和脂肪酸の輸送経路について解析した。これまでの検討から、脂質蓄積時において、高度不飽和脂肪酸は葉緑体、小胞体を経て合成され、オイルボディへ輸送されることが示唆されている。そこで新たに、脂質分解時における高度不飽和脂肪酸の細胞内動態を検証したところ、蓄積時とは逆にオイルボディから葉緑体へ輸送されていることが示唆された。このことは、高度不飽和脂肪酸はオイルボディにのみ局在するのではなく、細胞内のオルガネラ間を可逆的に、ダイナミックに移動していることを意味している。この結果から、高度不飽和脂肪酸からPGを合成する際には、葉緑体、小胞体、オイルボディ等、高度不飽和脂肪酸の輸送経路となるオルガネラのいずれかにおいてPG合成酵素を発現すればよいことが示唆された。なお、PG合成酵素であるシクロオキシゲナーゼの組み換え発現についても検討しており、形質転換体株の作出に成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度において、当初予定していたF. solaris細胞内における高度不飽和脂肪酸の細胞内局在や輸送経路の解析を実施することができた。解析により明らかとなった高度不飽和脂肪酸の輸送経路となるオルガネラに局在するように、前躯体となる高度不飽和脂肪酸の合成酵素やPG合成酵素を発現させることにより、効率的なPG合成を行うことができると考えられる。F. solarisの各オルガネラに局所的に組み換えタンパク質を発現させるためのシグナルペプチドは既に解明されていることから、来年度において、上記のような代謝改変を実施することは可能であると考えられる。以上のことにより、本研究はおおむね順調に進んでいると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、オイル生産微細藻類Fistulifera solarisにおいて、脂肪酸組成の改変技術を確立し、プロスタグランジン生合成用のホスト作出を実施する。具体的には、前年度に特定した、当該株の高度不飽和脂肪酸合成経路を参考に、ボトルネック酵素となり得る酵素のノックイン(過剰発現)を行う。ノックインの候補としては、葉緑体や小胞体に局在する脂肪酸合成酵素等が挙げられる。関連酵素のノックインにより作出した変異株においては、培養検討も合わせて実施することで、プロスタグランジンの前駆体となる脂肪酸の蓄積を試みる。また、各酵素への蛍光タンパク質のタグ標識により局在解析を実施する。これにより変異株における脂肪酸合成の制御因子や増強因子の評価を進め、プロスタグランジン生産に資するホスト作出を行う。 さらに、作出したプロスタグランジン生合成用ホストの各オルガネラに発現するように、シクロオキシゲナーゼ遺伝子を導入し、プロスタグランジンの生産が可能か検証する。藻体からのプロスタグランジンの検出には、免疫測定法、及び質量分析法による解析を採用する。これらの解析により、作出したプロスタグランジン生合成用ホストの性能を評価する。
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