研究課題/領域番号 |
17H03466
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
吉野 知子 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30409750)
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研究分担者 |
田中 剛 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20345333)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 磁性細菌 / マグネトソーム / 膜タンパク質 / 膜質改変 |
研究実績の概要 |
本研究では、磁性細菌が生合成する磁性粒子を被覆する脂質二重膜を膜タンパク質のプラットフォームとして用い、遺伝子工学的な手法により膜組成を改質することで、ヒト由来膜タンパク質の機能発現を実現する。磁性細菌Magnetospirillum magneticum AMB-1の細胞膜及びマグネトソーム膜の脂質解析を検討した結果、ヒトの脂質二重膜に豊富に含有されるホスファチジルコリン(PC)は含有されず、ホスファチジルエタノールアミン(PE)等が主成分であることが明らかとなっている。そこで、平成29度においてはまず、磁性細菌AMB-1のゲノム情報に基づいたKEGG pathway解析により、磁性細菌AMB-1の脂質代謝経路を明らかとした。その結果、磁性細菌AMB-1のゲノムにはPCを合成する酵素群がコードされていないことが示された。この結果は、上記の脂質組成解析の結果と一致した。次いで、磁性細菌AMB-1の膜組成改質を目的とし、PE前駆体合成遺伝子のノックアウト、及びPC合成遺伝子のノックインを検討した。このうち、PC合成遺伝子のノックインについては、大腸菌の先行研究によりPC合成が確認されているLegionella pneumophira由来PC synthase (pcs)遺伝子、及び磁性細菌AMB-1と系統的に近縁種であるAzospirillum brasilense由来Phosphatidyl-ethanolamine N-methyltransferase(pemt)遺伝子を導入した形質転換体の作出に成功した。作出した形質転換体から総脂質を抽出し、薄層クロマトグラフィー、および液体クロマトグラフィー-質量分析による解析を実施したところ、PCが新規に合成されていることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度までに、当初想定していた磁性細菌AMB-1の脂質の代謝経路の解析、及び遺伝子組み換えによる膜組成の改質に成功することができた。解析により明らかとなった脂質代謝経路が、PC合成経路の外挿によりどのような影響を受けるかについても、Real-time PCRを用いた発現量解析を実施し、予備的なデータの取得が完了している。これにより、遺伝子組み換えによる膜組成の改質手法の妥当性を検証できる段階にある。これらの成果により、来年度に予定されている、マグネトソーム膜上へのPC導入の有無の検証を滞りなく開始することができると考えられる。以上の事より、本研究はおおむね順調に進んでいると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度においては、前年度までに作出した磁性細菌AMB-1形質転換体を用いて、合成されたPCがマグネトソーム膜に含有されているか、詳細なキャラクタリゼーションを実施する。具体的には作出した形質転換体から、細胞内膜、外膜、マグネトソーム膜画分を調製し、薄層クロマトグラフィーや質量分析等により、PCの分布を解析する。さらに、伸長酵素及び不飽和化酵素遺伝子を導入することにより、リン脂質の種類だけでなく脂肪酸の鎖長、不飽和度の異なるマグネトソーム膜組成の作製も試みる。これらの取り組みにより、脂質代謝改変によるマグネトソーム膜改変技術の確立を実証する。PE前駆体合成遺伝子のノックアウト株についても引き続き作出の検討を行う。
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