研究課題/領域番号 |
17H03471
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
中村 史 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究グループ長 (40357661)
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研究分担者 |
山岸 彩奈 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (00778293)
長崎 晃 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (30392640)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | バイオセンサー / 細胞・組織 / 癌 / ナノバイオ / 走査プローブ顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究では、生きた細胞の細胞骨格の機械的測定という独自に開発する手法によりマウス乳癌細胞の中間径フィラメントネスチンの骨格としての機能と構造について詳細な解析を行うことを目的としている。我々は先導研究により高転移性マウス乳がん細胞に対しCRISPR/Casを用いたゲノム編集によりネスチン欠損株を作製しており、血行性転移試験の結果、ネスチン欠損株において悪性度が低下していることを確認した。また円柱型AFM探針を用いた細胞弾性測定により、ネスチン欠損株の細胞弾性が元株に対して上昇していることを明らかにした。平成29年度は、これらの細胞株に対して抗体修飾ナノニードルを用いた中間径フィラメントの伸展特性の評価を検討した。ネスチンは単独で繊維形成することが出来ず、本乳癌細胞株では同じく中間径フィラメントであるビメンチンと共重合することによって発現している。我々はマウスネスチンのC末端の171 kDaの巨大なテール領域がビメンチンテール領域のアクチン繊維との結合を阻害し、これにより細胞骨格の結合点が減少するために細胞弾性が低下すると推察している。野生株およびネスチン欠損株に対してビメンチンの引張試験を行ったところ、細胞弾性が低い野生株においてビメンチン繊維がより小さな力で伸展することが分かり、細胞弾性と細胞骨格の伸展性に相関があることを示した。ネスチン欠損株にネスチン遺伝子を導入し、ネスチン発現回復試験を行った結果、ネスチンの発現が確認されるとともに弾性率の低下が観察され、ネスチンに細胞を柔軟化する機能があることが証明された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発現回復試験に用いたマウスネスチン遺伝子は元株のマウス遺伝子配列とテール領域だけで40塩基の違いがある。この配列の違いはネスチンの細胞を柔軟化する機能に影響せず、ネスチンの共重合繊維の形成にも影響しないため、クローン取得が困難であった全長cDNAに代用することが出来ると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
テール領域の配列の違いによらず細胞柔軟化機能が回復した事実は、巨大なネスチンテール領域がビメンチンテール領域のアクチン繊維との結合を立体障害により阻害するという我々の仮説に矛盾しない。今後はテール領域のデリーションシリーズを構築し、仮説を立証する。またデリーションシリーズの評価を通じて細胞骨格の機械的性質を評価する本手法の確立を目指す。
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