研究課題/領域番号 |
17H03479
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
吹場 活佳 静岡大学, 工学部, 准教授 (50435814)
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研究分担者 |
佐藤 哲也 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (80249937)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 液体水素 / 沸騰伝熱 / 極低温 / ボイド率 |
研究実績の概要 |
大きく分けて1.現象の理解と2.被膜による予冷の高効率化,の2つの観点から研究を進めている.1.については研究分担者が、2.については研究代表者が主担当となるよう役割を分担している。 1.の現象の理解に関しては,昨年度末に液体水素実験を実施しており,当グループで独自に開発した静電容量を用いたボイド率計によるボイド率計測に成功した.実験はJAXA能代実験場にて,液体水素をヒータで加熱する形式で実施した.様々な流量、加熱条件においてどの流動様相が発生するかを映像を含めて記録することができた.液体水素に対するこのようなデータの取得は世界的に見ても極めて稀であり、現象の理解に向けて大きく前進することができた。 2.の被膜による予冷の高効率化に関して,昨年度までにPTFE被膜の厚さが予冷に及ぼす影響を調べる実験,およびアルミニウム表面に施した陽極酸化被膜による予冷促進効果に関する実験を実施した.PTFE被膜を用いた実験では,適切な厚みを選択することで予冷時間を50 %以上短縮することが可能であることを確認した.一方、厚みが大きくなることで予冷終盤の温度の低下が極めて緩慢になることが分かった.これに対し被膜の一部に孔を空けることでこの現象を回避するアイデアを提案し実証した.アルミニウム表面への陽極酸化被膜の施工による予冷促進に関しては、一定の成果が得られたものの、固く強固な被膜を厚く施工するのが困難であることが明らかとなった.なお,2.の実験において用いた流体は液体窒素である. 得られた成果について、国際学会2件、国内学会8件の発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初掲げた研究計画における「計測技術の確立」と「予冷の高効率化」に対し、ほぼ計画通りに研究が進行している。 「計測技術の確立」について、初年度の目標として液体水素のボイド率計測手法の開発を掲げていた。これについては材料の適切な選定や防爆対応などの処置を行った上、先述の通り昨年度末に能代実験場にて計測実験を行っており、目標をほぼ達成することができた。 「予冷の高効率化」については、PTFE被膜を用いて厚さが予冷に及ぼす影響を調べる実験を実施したほか、研究計画に書いた通り新手法の採用によるさらなる予冷時間の短縮についても取り組んだ。新しい手法として、まずはアルミニウム表面に施した陽極酸化被膜による予冷促進効果に関する実験を実施した.この手法については強固な被膜を厚く施工するのが困難であるという課題が見つかった.また、「ナノファイバー」による被膜を用いた予冷時間短縮法についても提案した.ナノファイバーはナノサイズの直径をもつ繊維で,近年開発された「エレクトロスピニング」と呼ばれる技術で比較的容易に生成することができる.ナノファイバーによる被膜は厚みを比較的自由に制御可能なことに加え,表面積が極めて大きいため,飛躍的な伝熱促進が期待できる.本件については昨年度中にナノファイバーを生成する技術を確立するところまで研究が進んでおり,今年度中に本手法による予冷促進効果を定量的に把握するところまで進む予定である.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに、液体水素を用いて実験を行う際の手続きや手順についての知見が得られており、今後は本格的に液体水素実験を開始する. 「現象の理解」については,装置の改良により,より高い圧力で液体水素を流す実験を実施する.圧力の上昇により,液体水素のサブクール度,すなわちその圧力における飽和温度との温度差を大きくとることができ,これによりさらに広い流量範囲における流動特性を把握できるようになる. 「予冷の高効率化」に関しては、先述のナノファイバーを用いた伝熱促進手法に関し、まずは液体窒素を用いて実験室で伝熱促進効果を確認する.ナノファイバーは樹脂の溶液に高圧の電場を印加することで生成することができるが,その際の電圧の大きさなどが生成されるナノファイバーの線径や形状を決定する.これらのパラメータを変化させて実験を行い,より効果的な伝熱促進を行うことができる被膜を見つけ出す.また,被膜の一部に孔を空けることで予冷時間を短縮するアイデアについて,孔径の数や大きさが予冷時間に及ぼす影響について調査する. さらに,PTFE被膜に関して液体水素を用いた実験を実施する.液体水素実験は安全のためすべて遠隔で操作できるよう実験装置を構築する必要がある.まずは遠隔操作可能な装置を製作し,実験室で液体窒素を用いてその性能を確認する.すべての準備が整い次第JAXA能代実験場へ出向き液体水素を用いて実験を実施する.
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