研究課題
本研究では液体燃料を使用するロケットの打ち上げ作業において,作業時間およびコストの面で支配的要因となっている「配管予冷」の問題に対し,配管表面に低熱伝導率の被膜を塗布することで沸騰伝熱を促進する革新的技術により予冷時間の短縮と燃料消費量の大幅な削減を図る.昨年度は研究室にて液体窒素を用いた予冷の促進に関する基礎実験を行い、いくつかの画期的な予冷促進方法の実証に成功した。加えてJAXA能代実験場にて液体水素を用いた予冷実験を行い、流動のない条件における液体水素予冷の基礎的なデータを得ることができた。まず、PTFE被膜を用いた予冷促進法について、PTFE被膜の一部に開口部を設けることによりさらに予冷時間が削減されることを発見した。PTFE被膜を塗布すると、膜沸騰から核沸騰への遷移は早まるものの、PTFE被膜自体は熱伝導率が低いため、沸騰熱伝達が終了し液相単相になった際の熱伝達は悪化する。開口部を設けることにより予冷を改善する手法は本研究で初めて提案されたものであり、近日中に研究成果を投稿論文として公開する計画である。さらに、ナノファイバーを用いた予冷促進法に関しては、上記の開口部を用いる手法を上回る予冷時間短縮に成功した。ナノファイバーはナノサイズの直径をもつ繊維で,近年開発された「エレクトロスピニング」と呼ばれる技術で比較的容易に生成することができる.ナノファイバーによる被膜は厚みを比較的自由に制御可能なことに加え,表面積が極めて大きい。これらの複合的な効果として、70%以上の大幅な予冷時間短縮に成功した。加えて11月にはJAXA能代実験場にて液体水素を用いた予冷実験を行い、流動のない条件における液体水素予冷の基礎的なデータを得た。液体水素による熱伝達のデータはほとんど公表されておらず、貴重なデータを取得することができた。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画では平成30年度においては、A.極低温流体を用いた予冷の現象の理解、特に流動様式線図の作成、および、B.JAXA能代実験場を利用した液体水素実験の実施、を行うこととしていた。このうちAの流動様式線図の作成に関しては、研究分担者らのグループを中心に、新しく開発したボイド率計を用いて平成29年度に流動実験を実施した。その後データの整理、解析を行い、平成30年度中に流動様式線図の作成をほぼ完了した。液体水素の流動様式線図はこれまでに公表されている水などの流体の流動様式線図とは大きく異なり、独特な様相を見せることが明らかになった。また,沸騰水素流動試験時に明らかとなった,ボイド率計の温度ドリフト問題(センサー温度の変動により測定精度が低下する問題)の解明に取り組んだ。さらに,この温度ドリフト問題を低減するセンサーとして大小複数の極板を流体と接して配置するボイド率計の開発を行った。またBの液体水素実験に関しても、これまでに配管内を液体水素を流動させる強制対流実験、容器に液体水素をためて流動のない状態で実験を行うプール沸騰実験の両方を実施した。昨年11月に実施したプール沸騰実験では、冷却用の銅板を配置した円筒容器内に液体水素を注ぎ、流動のない状態で予冷実験を実施した。同じ実験装置を用いて液体窒素、液体水素ともにデータを取得しており、それぞれの沸騰伝熱を比較することができた。予冷の実験を行う際、危険な液体水素を避けて液体窒素を用いて行われることがある。今回の結果はこのような場合に有益な情報を提供することができる。上記のように、本研究は当初の計画と比較して順調に進行しており、「おおむね順調に進展している」と判断する。
最終年度である平成31年度は液体水素を用いた予冷促進手法の実証実験を実施し、あわせて成果の公表を進める。先述の通り、本研究においてこれまでにいくつかの独自の予冷促進手法を開発してきた。本年度はこれらの予冷時間削減手法を液体水素を用いて実証する。昨年度実施した液体水素実験により、能代実験場において安全に液体水素実験を実施する目途が立った。本年度は上記の「開口部のあるPTFE被膜」「ナノファイバー被膜」を施した実験装置をJAXA能代実験場に持ち込み、液体水素による予冷実験を実施する。昨年度の予備実験での問題点として、液体水素の沸騰が液体窒素のものより激しく、実験開始前の容器の冷却が困難であった点があげられる。この点に関しては、容器全体をPTFEコーティングするなどの対策が考えられる。また、液体水素温度の計測にはシリコンダイオードセンサを用いるが、これがノイズに弱く、正しいデータを取得するのに苦労した。今年度はアースをしっかり取るなどの対策を行い実験に臨む予定である。さらに余裕があれば、タンク(貯槽)などのより実用的な形状に対しても予冷を行い、実用化に向けたデータを蓄積したい。併せて、これまでの研究成果を積極的に公表するよう努める。
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航空宇宙技術
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