研究課題/領域番号 |
17H03481
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
新城 淳史 島根大学, 学術研究院理工学系, 准教授 (10358476)
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研究分担者 |
梅村 章 公益財団法人名古屋産業科学研究所, 研究部, 上席研究員 (60134152)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 推進・エンジン / シミュレーション工学 / 国際宇宙ステーション(ISS) / 流体工学 / 噴霧燃焼 |
研究実績の概要 |
前年度に研究が進み、実施計画を前倒しすることができたため、今年度はよりエンジン作動条件に近付け、蒸発噴霧および燃焼噴霧の解析に注力した。その結果、ISS実験結果の成果として本研究で提案している乱流微粒化モデルが噴霧形成の解析には非常に有効であることが分かった。蒸発噴霧や燃焼噴霧においては噴霧周りに蒸発層を挟んで低温層と高温層の形成が起こることで三層構造が形成され、この構造は噴霧形成途中においては維持されるため、噴霧分裂長さが下流のエンジン燃焼室の特性を決める。さらに燃焼噴霧における燃焼(昇温)が動粘性係数の変化を起こし噴霧をより早く分裂させることも分かった。そのため、噴霧の発達距離を正確に見積もることが重要であることが改めて認識された。これまでこのような解析は行うことができなかったが、我々の提案した乱流微粒化モデルのおかげで噴霧の形成過程を詳細に追うことが可能になり、噴霧の物理機構を明らかにすることができた。これらの結果は、すでに30年度に査読付論文として発表してある(Combustion and Flame誌)。 これは、本研究のアプローチのように非定常に噴霧の形成を正しく追うことでしかこのような結果を得ることができないため本研究の優位性を示している。これらの噴霧特性はエンジン条件では燃焼や排出物の特性に強く影響するため、本解析は実用面でも有用なツールになる。本研究で開発したコードはエンジン解析に実装できるよう自動車メーカと共同してコードの効率化を進めている。このため、社会還元という意味でもインパクトある結果になると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画では、30年度後半に開始するはずだった蒸発・燃焼噴霧の解析を前年度の進捗により年度当初から開始でき、その解析結果を分析することで噴霧形成・発達のメカニズムを詳細に解明することができた。また、化学反応(燃焼)に関しては、簡素な総括一段反応系とより詳細な多段反応系をコードに組み込み、着火遅れや生成物に関する中間反応の効果も明らかにすることができた。これは当初計画より進んで進捗している。多段反応系の解析は時間がかかるが、科研費で導入した計算機により占有してコード効率の向上と複数ケースの計算実行ができたため、解析時間が確保できたことが大きく寄与した。これにより、前年度確認されていた非蒸発噴霧に対する本コードの有効性が、さらに蒸発や反応(燃焼)を入れても有効であることが確認された。これは、エンジン解析には非常に有効な特性であり、実用化への道筋をつけた。
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今後の研究の推進方策 |
30年度の解析により、本研究での微粒化モデルとそれを組み込んだコードの有用性は確認された。したがって、31年度はより有用な結果を得て噴霧機構のデータベースを構築するために、噴射条件を変えてより多くのケースで解析を行い、さらなる噴霧形成物理の理解につなげることとする。特に、エンジン条件でも使われることが多い非定常な複数回および複数本の噴射について解析し、複数噴霧の干渉等を解明する。これを単噴射と比較することでエンジン設計の知見が得られることを期待している。また、これまで主にディーゼル噴霧に代表される自動車エンジンでの噴霧条件を想定しているが、コードの有用性から高圧のガスタービンやロケット噴霧にも同時に適用できるため、それらに適用して噴霧機構を解明する。そうすれば、より広い範囲で産業界での有用性も認識されることとなると思われる。 また、当初計画を前倒しして、他計算機システムにおける実エンジンでの設計への利用を想定してコードの汎用性を高める改良を行う。それにより、より開発現場で使いやすいコードにし、社会還元を行うこととする。
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