研究課題/領域番号 |
17H03488
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
飯島 一博 大阪大学, 工学研究科, 教授 (50302758)
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研究分担者 |
藤久保 昌彦 大阪大学, 工学研究科, 教授 (30156848)
馬 沖 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, その他部局等, 研究員 (30773197)
高見 朋希 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, その他部局等, 研究員 (50586683)
辰巳 晃 大阪大学, 工学研究科, 助教 (60736487)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | FORM / 設計波 / CFD-FEA / 連成解析 / 低次元化モデル / 船体構造 / 局部応答 / 模型実験 |
研究実績の概要 |
2018年度は海上技術安全研究所において,船体縮尺模型を用いた実験を行い,開発したCFD-FEM連成解析法の検証,FORMを用いた設計不規則波導出ならびに設計不規則波を用いた荷重極値確率分布の推定法についての検証を行った.本課題の中核となる成果をあげることができたといえる.具体的な研究実績として次の項目を挙げる.
①CFD-FEMの双方向連成手法を開発した.同手法により,ハルガーダ縦曲げモーメントの通常波浪成分と弾性振動による成分,また局部荷重について一貫した解析が可能であることを示した.②次に,CFD-FEMと同等の精度を有し,短時間で荷重推定ができるROM(Reduced Order Model)の開発を行った.得られたROMに対して,FORMを適用することで設計不規則波を導出する手法の開発を行った.これにより大幅な計算効率化を図ることができた.③ROM+FORMの手法で予め定めた設計不規則波を水槽試験に供したときの荷重計測結果と,不規則波中で計測された荷重極値確率分布を比較したところ,両者はよく一致した.ROM+FORMの手法により,設計不規則波を特定できることを模型実験的に確認できた.④一方で,弾性振動が卓越する場合には,ROM+FORMの方法を用いたときに,複数の設計点が存在しうることが判明した.ひとつの設計不規則波に絞り込めないことを意味しており,今後の課題とした.⑤また,前年度開発した縮尺模型に関しては,計測により局部応答のみを取り出すことができず,縦曲げなどハルガーダ応答と局部応答が重畳してしまう欠点が見つかった.ハルガーダ応答と局部応答を同時に計測する模型の開発は今後も必要である.⑥船体作用荷重をシミュレーションする際の不確実性についてとりまとめ,同不確実性の定量的な評価を試みた.⑦二重化FORM法による構造信頼性評価を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の中核的な課題はFORM(一次信頼性手法)により,局部荷重とハルガーダ応答の位相差を正しく考慮したうえで,例えば崩壊事象に最も致命的な波浪時刻暦(設計不規則波)を求め,これにより荷重の極値を効率的に求め,かつ破損確率を評価することであった. 2018年度中に,CFD+FEMの連成解析手法を開発し,局部荷重とハルガーダ荷重を一貫して解析することができるようになった.また,CFD+FEM連成解析に要する膨大な時間を削減するために,ターゲットとする時刻近辺でCFD+FEMと等価な結果を与えるROM(低次元化)モデルを開発し,FORMをROMに対して適用することで,設計不規則波を効率よく特定しうることを示した. さらに,2017年度に開発した縮尺模型を用いた水槽試験によって,ROM+FORM手法により得られた設計不規則波,その下での荷重の極値を調べ,FORM+ROMの方法に有用性を確認した.複合荷重下の崩壊事象を限界状態関数とすることで,崩壊確率も求められることを示した.以上の成果から計画通りに順調に研究進展しているといえる. 一方で,応答の非線形性の度合いが高い場合には候補となる設計不規則波が複数存在するという問題点を摘出した.今後この問題を解決することができれば,様々な非線形問題へのFORM法の適用が可能となると思われ,当初の予定を上回る成果が期待される.また,開発された連成解析手法を可撓性が大きな浮体構造物に適用した時に,線形波の下であっても浮体上に非線形波が形成されること,この原因が流体と構造の境界における非線形性にあることを突き止めている.浮体の弾性応答に関する新しい知見であるといえ,この点では当初の予定を上回る成果をあげていると言える.
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今後の研究の推進方策 |
前項で述べたように2018年度の研究によって,当初の目標の大半を達成することができている.その一方で,スラミング衝撃荷重が大きく,それによって引き起こされる弾性振動が卓越する場合には,開発されたROM+FORMによる手法がうまく機能しない場合があること,また,主な原因として複数の設計点が存在するためであることが示された.今後,この問題を解決できれば,FORMの強非線形問題への拡張のための糸口がつかめるものと思われる.現時点ではROMにモンテカルロ法を組み合わせる手法を検討しており,これに限らずFORMの強非線形問題への拡張を進めたい. また,浮体の可撓性が大きくなった場合の,浮体上の波の非線形現象を発見し,その一部を理論解明した.現状で二次の非線形まで検討できているので,同理論をさらに三次の非線形波にまで拡張ができれば,本研究から派生する世界に先駆けた成果といえる.今後,この方向の検討を詰めていきたい. 以上のように,本課題研究の遂行により多数の成果を挙げてきている.成果の公表は重要であると考えており,様々な機会を使って成果発表を行う.
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