研究課題/領域番号 |
17H03492
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
大澤 輝夫 神戸大学, 海事科学研究科, 教授 (80324284)
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研究分担者 |
香西 克俊 神戸大学, 海事科学研究科, 教授 (30186613)
嶋田 進 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 研究員 (90712208)
小垣 哲也 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 研究チーム長 (90356973)
竹山 優子 東京海洋大学, 学術研究院, 助教 (00510025)
中村 聡志 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, 港湾空港技術研究所, 上席研究官 (30371751)
川口 浩二 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, 港湾空港技術研究所, グループ長 (50371753)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 風力エネルギー / 洋上風力発電 / 風況 / 海洋気象 |
研究実績の概要 |
本研究では,洋上風力発電の開発候補海域においてバンカビリティ評価に使用可能な質の高い風況データを取得するために,その具体的手法の確立することを目的としている.当グループではこれまで低コストでデータ取得率の高い洋上風況調査手法として,ブイによる低高度の風況観測値をメソ気象モデルWRFによる計算値で高度補正してハブ高度風速を推定する手法「ブイ観測-WRF計算併用手法」の開発を行ってきた.その手法の検証のため,2018年度においては,2018年7月から2019年3月にかけて,茨城県神栖市の鹿島港港湾区域内の海岸線から2.5kmの海域にゼニライトブイ社/ソニック社製のブイを設置し,風況観測を実施した. 海面高度5mのブイ頂部に設置した超音波風向風速計により風速3成分を10Hzで計測し,この風速を慣性運動計測センサーから得られるブイの運動データを用いて動揺補正を行った.ブイ観測と同期して,陸上からは2台のスキャニングライダーによるデュアル観測を行い,ブイ観測値との比較,及び,ブイ観測値をWRFから得られる風速鉛直プロファイル計算値によりハブ高度風速へと高度補正した推定値と比較した.その結果,5.2km離れた波崎桟橋上での観測値との比較において,風向・風速とも良い一致が見られ,動揺補正されたブイ観測風速値は妥当な値であることが確認できた.また,ハブ高度(100m)での風速推定値とデュアルライダー観測値との比較においては,WRF単体による推定精度を上回ることがわかった.これらはいずれも「ブイ観測-WRF計算併用手法」の有用性を示唆する結果である.一方で,デュアルライダー観測値とブイ観測値との直接比較においては,両者の間に10%程度の差異が見られることが明らかになり,当初真値として扱う予定であったデュアルライダー観測値の精度そのものを再検証する必要があることも明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2017年度中に予定していた茨城県神栖市の鹿島港港湾区域内でのブイ観測は,海上保安庁,茨城県庁,鹿島灘漁協,ブイ製作会社,海上工事会社との間での協議により,工事用台船の運用やダイバーの安全性,複数の漁協の漁期の条件等により,全関係者と合意できる観測期間が2018年6月以降となったため,結果的に観測開始が2018年7月にずれ込んだ.7月8日にブイ観測を開始したが,その直後から同期して観測していたスキャニングライダーの不調が重なり,8月初旬までデュアルライダー観測がうまくいかなかった.8月6日にようやく全ての観測機器が揃い,本格的な同期観測が始まったが,その直後に襲った台風13号によるブイの破損により,2018年8月12日からブイ観測が続行不可能になってしまった.その後の対応については産業技術総合研究所と度重なる協議を行い,何とかブイの修繕費及び再観測費用を調達し,11月1日にブイ観測を再開した.12月末までにはブイを撤収する予定であったが,悪天候による作業延期が重なり,最終的に年を跨いだ2019年3月15日の撤収となった. 本研究で主要な要素を占めるブイ観測において上記のような作業遅れが出たため,研究全体の進捗状況としてはやや遅れている状況にある.ただし,観測とは独立している数値計算の部分に関しては,他の海域で得られた観測データを入手し,計算手法の高精度化や手法間の比較検討を実施できており,こちらは順調に進んでいると言える.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,茨城県神栖市沖合海域を観測フィールドとして,海岸線から数km沖合の風車ハブ高度における風況を推定する手法の検討を行う.ライダーやブイによる実海域の観測データを解析すると共に,それらに同期したメソ気象モデル及び工学モデルによる数値シミュレーションを実施する.これらの観測値と計算値を用いて以下4つの手法の検討を行う:(a) スキャニングライダーによる直接観測手法,(b) ブイ観測値を数値計算によって高度補正する手法,(c) 沿岸の鉛直ライダー観測値を数値計算によって沖合に外挿する手法,(d) 衛星搭載合成開口レーダーによる観測値を数値計算によって高度補正する手法. 本年度前半は,昨年度に実施された風況観測ブイによる観測データの解析と,それに同期して行われた2台のスキャニングライダー観測,鉛直ライダー観測,及び桟橋上での気象海象観測から得られたデータの整理と解析を行う.また新規に合成開口レーダーデータの収集と解析を行う.(a)及び(b)に関しては,昨年度までの解析において両者に大きな差異が見られたことから,11月から1月にかけて取得された新しいデータを追加し,更に,メソ気象モデルWRFによる鉛直プロファイルの改善を目指すことにより差異の減少を図り,両手法の妥当性について検討する.(c)と(d)については今年度新規に手法の検討を行う.(c)については,桟橋での鉛直ライダーの観測値を入力として,ブイ位置での風速の推定を行う.(d)については,欧州宇宙機関の衛星Sentinelに搭載されたCバンド合成開口レーダーの画像から海上風速を推定し,現場観測値により精度検証を行う.上記の検討と並行して,メソ気象モデルWRFと数値流体力学モデルによる数値シミュレーションを行い,両者の特性及び精度を比較すると共に,観測値補正手法の導入により同海域における高精度な局所風況マップを作成する.
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