研究課題/領域番号 |
17H03511
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
宮本 光貴 島根大学, 総合理工学研究科, 准教授 (80379693)
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研究分担者 |
金 宰煥 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 六ヶ所核融合研究所 ブランケット研究開発部, 主任研究員(定常) (80613611)
時谷 政行 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 助教 (30455208)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | プラズマ・壁相互作用 / 照射損傷 / ベリリウム |
研究実績の概要 |
国際熱核融合実験炉(ITER)では,プラズマ対向壁面の大部分にベリリウムタイルの使用が予定されている.本研究では,プラズマ対向材料としてのベリリウム中の水素同位体挙動を定量的に評価するとともに,原子レベルでの組織観察を行い,微視的観点から現象のメカニズムを解明する事を目指している. ベリリウムは,その取り扱いに注意を要することから,初年度は試料の準備,加工,保管が十分安全に行える設備を整えた.一連の作業が十分安全に行えることを確認したうえで,ベリリウムバルクにおける低エネルギーイオン照射実験を行い,基礎的な照射データの収集を行った.具体的には,室温で3keVのヘリウム・重水素イオンをそれぞれ照射した試料について,ガス保持放出特性の照射量の依存性を調べた.あわせて,透過型電子顕微鏡(TEM)内におけるイオン照射,および昇温下の動的微細組織変化のその場観察を行い,重水素,およびヘリウム照射のそれぞれにおいて欠陥の形成や回復の挙動を系統的に調べ,ガス放出挙動との関連を明らかにした. また,カリフォルニア大学サンディエゴ校の直線型高密度プラズマ発生装置を用いたプラズマ曝露実験では,高密度プラズマに曝した試料の断面TEM観察から,特異なコーン状組織の形成を観察し,その形成機構に関する知見を得た.さらに,原因の解明には至らなかったがD+He混合プラズマに曝した試料においては,その重水素保持量が大きく減少することが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は,まず取り扱いに注意を要するベリリウムについて試料の準備,加工,保管が十分安全に行える設備を整えた.当初予定していたグローブボックスの導入は,予算の都合等で取りやめたが,既存の大型グローブボックスに,精密切断機を導入し,切断や研磨などの試料の前準備を,実験者と試料を完全に隔離した上で行えるようにした.また,試料の保管や廃棄物の管理のために排気機能付きの保管庫を整備した.さらに,平成30年度に予定していた,イオン照射-昇温脱離実験装置の改良についても,前倒しして着手しており,予定よりも早い段階で稼働できるように準備を進めている. データの取得については,一連の作業が十分安全に行えることを確認したうえで,ベリリウムバルクを用いた基礎的な照射データの収集を行った.その他,カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)に設置されたプラズマ発生装置PISCESにおける高密度プラズマ照射実験を実施した. 全体としてはおおむね順調に研究が進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
研究2年目にあたる本年度は,(1)既設のイオン照射装置を改良し,昇温脱離ガス分析装置と接続する.さらに構築した装置を用いて(2)実験パラメータを拡張する予定である.具体的内容を以下に述べる. (1)イオン照射-昇温脱離実験装置の改良: ベリリウムは通常,表面に酸化被膜を形成しているため,その水素保持特性は,被膜の影響を大きく受けることが指摘されている.そのため本年度は,イオン照射後の清浄な試料表面を大気曝露することなく,昇温脱離分析が可能なように,装置の改造を予定している.既存のイオン照射装置と昇温脱離実験装置をトランスファーロッドにより結合し,超高真空内で装置間の試料搬送を可能なシステムを構築する. (2)実験パラメータの拡張: 基礎的なデータの取得を引き続き行うとともに,上述の(1)で構築した装置により,大気曝露の影響を排除した条件でのイオン照射後の昇温脱離実験を行う.さらに重水素・ヘリウムの逐次イオン照射を実施し,実際の核融合炉環境下で予想される複合的条件下でのデータ収集に着手する.これらの良く制御された系でのイオン照射実験の結果と,混合プラズマ(UCSD)や実機プラズマ(JET,LHD)に曝した試料の分析結果の比較から,ITERで予想される複雑なPSI現象を支配する個々の素過程の理解に取り組む. なお,研究成果の発信においては,国内外における学会,研究会において積極的に成果報告を行うとともに,広く認められた学術雑誌に多数の論文を寄稿するように努める予定である.
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