研究課題
国際熱核融合実験炉(ITER)では,プラズマ対向壁面の大部分にベリリウムタイルの使用が予定されている.本研究では,プラズマ対向材料としてのベリリウム中の水素同位体挙動を定量的に評価するとともに,原子レベルでの組織観察を行い,微視的観点から現象のメカニズムを解明する事を目指している.研究2年目にあたる昨年度は,島根大学既存のイオン照射装置,および昇温脱離実験装置の改造を進めた.ロードロック機構の導入により効率よく実験を進めることができるとともに,イオン照射後の清浄な試料表面を大気曝露することなく,昇温脱離分析が可能な実験装置を構築した.また,本装置を用いた基礎的なデータ収集を目的として,ベリリウム試料を用いて,ヘリウム共存下における水素保持挙動について調査を行った.ベリリウムバルク試料にヘリウム予照射後の,重水素追照射を行い,水素保持特性に関するヘリウム予照射量依存性を調べた.その結果,ヘリウムの照射量に応じて重水素保持量および表面損傷組織が変化することが明らかになった.低ヘリウム照射量の場合,ヘリウム照射により誘起された欠陥が重水素の捕獲サイトとして機能するため,欠陥量に応じて水素保持量は増加したが,さらに高いヘリウム照射量においては,逆に水素保持量が減少する事を見出した.断面微細組織観察の結果,高ヘリウム照射した試料では,ヘリウムバブルが巨大なクラスターを形成し,水素の脱離経路として機能する事が示唆された.
2: おおむね順調に進展している
ベリリウム試料を安全に準備,加工,保管ができる設備は整えており,研究2年目にあたる昨年度は,島根大学既存のイオン照射装置,および昇温脱離実験装置の改造を進めた.既に,本装置を用いた本格的な実験研究に取り組んでいる.既に,ベリリウムの水素保持挙動に与えるヘリウムの予照射の影響等について多くの知見が得られており,一定の成果が上がっている.また,関連したいくつかの枠組みの共同研究が実施されており,本研究成果に関する知見の共有など,研究者レベルでの緊密な連携も取られている.概ね順調に研究が進展していると考えられる.
本年度は,昨年度構築した昇温脱離ガス分析装置直結型のイオン照射装置にさらなる改良を加えるとともに,QSTにおいて創生技術開発が進められているベリリウム金属間化合物の評価をあわせて行う予定である.ベリリウム金属間化合物は,現状では熱伝導性が低く材料の大型化が困難といった欠点があるが,高温環境下での優れた熱的安定や低水素保持特性といった利点を有しており,第一壁への適応可能性について検討する.また,本年度は研究期間の最終年度に当たり,これまでに得られている実験データの整理,および捕捉データの取得を行う.研究成果の発信においては,国内外における学会,研究会において積極的に成果報告を行うとともに,広く認められた学術雑誌に複数の論文を寄稿する事を予定している.
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件)
Fusion Engineering and Design
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Nuclear Materials and Energy
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