研究課題/領域番号 |
17H03512
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
和田 元 同志社大学, 理工学部, 教授 (30201263)
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研究分担者 |
津守 克嘉 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 教授 (50236949)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 負イオン / 表面生成 / 仕事関数 / プラズマ-表面相互作用 / 中性粒子加熱 / 高エネルギー加速 / イオン源 |
研究実績の概要 |
核融合科学研究所に設置した表面素過程実験装置は,主排気系の故障から再立ち上げを行うことになった.既存のターボ分子ポンプを用いたイオン源部小型真空容器,質量分析系,レンズ系をビームラインで分析室に接続し,接続部の真空排気のために小型のターボ分子ポンプを接続する改造工事を行った.9月期より実験を開始したが,その後低エネルギー領域での検出器効率に問題が生じ,装置調整を2018年前半期まで延長することとした.そこで,測定予定サンプルをAix-Marseille大学に送付して測定して貰ったところ,予想外に良い結果が得られ,以降の研究の指針を得ることができた.この研究成果はM. Sasao他“Negative-hydrogen-ion production from a nanoporous 12CaO・7Al2O3 electride surface”, Applied Physics Expressとして掲載予定である. 2018年度に得られた特に大きな成果として,核融合プラズマの中性粒子加熱用負イオン源を重水素で運転するとき,プラズマ電極の仕事関数低下のために用いる金属セシウムの消費量が水素運転時と比べて大きくなることを見出したことが挙げられる.共同研究者の津守氏の実験で,重水素運転で電子電流が増加し,負イオン電流が低下するため,より多くの金属セシウムを注入する必要が生じることも確認された.この重水素によるセシウム損失量増大効果についてまとめ,2017年10月スイスジュネーブで開催された国際イオン源会議に招待講演として報告した.更にもう一編の論文をReview of Scientific Instrumentsに投稿,受理されて発刊予定である.また,プラズマを用いた粒子反射評価の実験技術について行った報告では,Reviewerに「良いことを学ばせて貰った」との賛辞を頂戴した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
表面実験装置の改造に思いの他時間が必要となった.ビーム軸のアラインメント等,核融合科学研究所での実作業に加え,同志社大学での装置要素の研究開発にも大きな時間を割いた.最終的に核融合科学研での実験は2017年9月と2018年1月に実施し,改造・調整後の装置性能を確認し,低エネルギー領域での粒子検出効率に問題があることが分かった.2017年一年に限ると,この状況下での表面素過程実験の進捗度は70%程度であり,当初の研究計画から見て遅れが見られている.しかしながら,準備していたサンプルをフランスの共同研究先に送付したところ,現地でたまたまランタイムが取れ,プラズマを用いた実験が現地で実施されることになった.この実験は,本研究の当初予定には含まれていなかったが予想外の良いデータが得られることになり,素過程実験の遅れを埋め合わす以上の成果となっている.また,研究成果の発表も順調に進んでおり,今後は発表内容に対する他研究機関からのフィードバックに基づいて研究を深化させていきたい.
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今後の研究の推進方策 |
今後も計画通りに研究を進める.まず素過程実験装置の改造については9月に核融合科学研究所にて行う実験の下準備として,低エネルギー領域の計測を行うためのバイアス型MCP検出装置を同志社で構築・校正する.本年度より,同志社大学のイオン源実験も開始する.小型のイオン源を設計製作し,プラズマ電極に原子源からの水素原子を供給し,低エネルギー水素の反射過程をプラズマ状態下で測定できる実験系を構築する.理論面では前年度行ってきた二体衝突モデルへの表面粒子系モデルの取り込みの検討を継続しつつ,分子動力学計算の導入を開始する.基礎過程以外の2つの研究テーマ,「プラズマ中での原子源を利用した粒子反射効果の確認」と「表面での低エネルギー粒子反射モデルの計算」については,9月にロシア,ノボシビルスクのBudker原子核研究所で開催される負イオン・ビームとイオン源の国際会議に論文を提出して発表を行う予定である. 基礎過程実験については9月後半に核融合研に研究者と協力学生を集合させ,低エネルギー粒子反射の基礎データ採取に取り掛かる.始めに装置を一度大気開放・分解して低エネルギー粒子検出に対応したMCPを組み入れる.検出器の基本性能を確認した後,実績のあるモリブデン表面と,低仕事関数を有していて大気開放に対して安定性が期待されるC12A7エレクトライド表面での水素散乱について検討する予定である.負イオンの国際会議での報告の後,表面モデルの詳細検討に入る.表面モデルについては,大阪大学やフィリピン大学のロスバニョス校との共同研究の形で検討を進める.年度内中に粒子反射計算を行うのに適したCs-H-Mo小粒子系モデルの構築を目指す.また後半のイオン源を用いた実験では放電安定化を最重要課題とし,表面コンタミが起きない熱電子放出機構を考案し,実験に供する.期末には2018年度の研究成果を物理学会などで発表する.
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