研究課題/領域番号 |
17H03512
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
和田 元 同志社大学, 理工学部, 教授 (30201263)
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研究分担者 |
津守 克嘉 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 教授 (50236949)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 水素負イオン / 表面生成 / 仕事関数 / レーザー計測 / 表面粒子反射 |
研究実績の概要 |
研究は(1)表面素過程についての実験データ採取,(2)実イオン生成装置の運転条件を模擬した条件での基礎過程調査,(3)数値計算モデルを用いた実規模実験装置のデータ照合の三本柱で進めており,実績として(1)については一部データ採取をすませて今後さらに実験パラメーター範囲を拡大すべく装置の増強を行い,計画を達成した.(2)については装置を作成,最終段階には至っていないが試運転を行い,初期データを得た.また一部は学会報告した.(3)については既にReview記事を一本出版するなど十分な実績が得られている.特に実機で見られる現象:重水素を用いて水素負イオン源を用いる際Csが多量に消費される問題,がモデル計算により再現されることが明らかとなった.同様に最終的ではないものの,実験的にも表面吸着物が検出される負イオン信号と,局所的なプラズマパラメーターの相関に与える影響が得られるようになった.さらに低エネルギー水素負イオンの信号検出についても大きな成果が上がっている.実績として,2018年度中にJournal論文4件,査読のある国際会議プロシーディングズ13件の他,物理学会,応用物理学会,プラズマ核融合学会他国際会議になどに多数の口頭・ポスター発表を行った. 本研究は核融合科学研究所に研究分担者を置く形で,Aix-Marseille大学やMax-Planck研究所などとも協力して共同研究を進めている.水素負イオンを用いる核融合研究や高エネルギー加速分野の研究者ともコミュニティーを形成し,国際研究ネットワークを強化する上で一定の貢献を果たしている.この結果,海外の研究者からの問い合わせも増えつつあり,日本の当該領域研究の実績づくりに役立っている.本年度の実績として,三名のPDと一名の博士課程学生が本課題の研究グループに参加を希望し,同志社大学に対して受け入れを申請した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2018年度はこれまでの研究成果の報告を行い,一部は論文発表した.核融合科学研究所に建設していた装置を用いたデータ採取については,300eV/H程度の低エネルギー領域までデータ採取を終えた.平行して同志社大学では低エネルギーイオン源装置の研究開発を実施中で,装置整備後に利用を始める予定であるが,本イオン源システムでは,10eV/H程度の超低エネルギー水素イオンを輸送可能であることが2018年度研究にて明らかになった.現在データを取得中で,国際会議と雑誌に発表予定である.本システムの利用が実現すれば,これまで未検証であった超低エネルギー領域での水素反射時の負イオン生成率が確認できる予定であり,簡易に表面散乱現象を解析できる小型装置を同志社に整備すべく作業中である.この整備に必要な真空ポンプ類などは既存のものを利用する計画であり,設計については概ね完了したところである. モデル計算については2017年からの研究結果をまとめ,雑誌に投稿した.また2018年9月期に開催されたInternational Conference on Negative Ions, Beams and Sourcesにて口頭発表を行い,その際の会議抄録にも研究成果の一部をまとめた.さらに現状の二体衝突近似モデルを一歩進め,表面を離脱する水素原子に対して領域脱出期間中MD的な取り扱いが可能なように計算モデルの変更を行う可能性について検討を開始した.表面のポテンシャル構造については表面モデル計算グループと共同研究を行い,水素負イオン源のプラズマグリッド面に対する妥当なモデルについて議論し,研究成果をまとめて2018年度9月期に雑誌発表を行った. イオン源を用いた実機条件での計測についても装置が完成し,信号系などの確認を行っている.予算節約のために自作物主体としたが十分な性能が期待されている.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は(1)10eV/Hエネルギー領域の素過程データを採取する準備を続け、並行して(2)2018年度に組み上げた小型のイオン源模擬装置の調整と最適化、(3)表面反射・吸着・脱離モデルの低エネルギー効果の組み込みと、引き出し穴周辺シース領域のモデル化構築に取り組む。二つの独立したモデル計算は、2019年度の春学期中に統合化可能性検討を開始する。作業として理論・数値計算が主体となるため、集中して実験研究が行えない春学期中8月上旬までに初期モデルの構築を行い、学会発表を通じて他研究グループからの批判を得る. 国内の負イオン研究専門家が一堂に会する「負イオン研究会」が9月末期に開催される予定であるので,春学期末までの成果をもとに複数の論文を発表する.これに先んじて9月上旬に開催されるInternational Conference on Ion Sourcesや応用物理学会にも実験で得られた成果を発表し,他研究領域の研究者からのコメントを得る.秋学期には春学期中に取り組む表面モデル,プラズマ境界層モデルの検討を更に進め,夏休み期中に試運転を行った基礎過程実験装置,プラズマ模擬基礎過程解明を目指したモデル装置を適切に高性能化するための設計変更を行う. 12月にプラズマ核融合学会,とAsia-Pacific Conference on Plasma Physicsが開催されるので,研究計画と秋学期期間中に得た成果を報告する.また,冬休み期に学生を含めた研究協力者の支援を得て素過程実験として,MCP検出器の低エネルギー領域での感度校正を終え,10eV/H領域での水素反射時の負イオン化率を評価する.また,実イオン源模擬装置のプラズマグリッド温度計測と温度制御にもとづく表面吸着状態と負イオン生成能の相関関係を測定し,2020年3月までにモデル計算との一次照合作業を開始する.
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