研究課題/領域番号 |
17H03517
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
外山 健 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (50510129)
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研究分担者 |
大澤 一人 九州大学, 応用力学研究所, 助教 (90253541)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 照射欠陥 / 陽電子消滅 / 水素捕獲 |
研究実績の概要 |
水素は、材料の劣化に寄与すると考えられている。一般に金属中の水素溶解度は非常に小さいものの、照射材料では水素吸蔵が顕著に増加することが最近明らかになった。その原因は空孔型欠陥が強い水素捕獲サイトとなるためと考えられるが、空孔に捕獲された水素の観察は実験的に非常に難しく、詳細は良く分かっていない。本研究では、水素溶解度が金属中で最小であるタングステンを電子線あるいは中性子照射したのちに水素を導入し、空孔型欠陥への水素捕獲を陽電子消滅法と昇温脱離分析で観察することで、水素-空孔型欠陥の相互作用を明らかにすることを目的とする。 供試材は純タングステンであり、再結晶処理を行った(試料A)。その後、重水素ガス中で焼鈍(試料B)、中性子照射(試料C)、中性子照射後に真空中および重水素ガス中で焼鈍(試料DおよびE)を行った。 各試料の平均陽電子寿命は、試料Aでは128psであり、タングステンバルクでの値に近かった。試料BではAと比べてほとんど変化しなかった。試料Cでは330psと長くなった。寿命スペクトルは1成分でよくフィッティングされ、ほぼ全ての陽電子が中性子照射で導入された照射欠陥(空孔クラスター)に捕獲されていることが分かった。試料Dでは、寿命スペクトルは試料Cのそれとほぼ一致し、平均陽電子寿命は327psと試料Cとほぼ同一だった。これは、300℃×100時間の焼鈍では、空孔クラスターの寸法や数密度はほとんど変化しないことを示唆する。一方、試料Eでは、平均陽電子寿命は255psと試料CやDに比べ顕著に小さかった。重水素を内部に含む空孔クラスターでは、含まない場合よりも陽電子寿命が短いことを考えると、試料Eでは、空孔クラスターの内部に重水素が入り、捕獲されているために平均陽電子寿命が小さくなったと考えられる。 以上より、タングステン中の照射欠陥における重水素捕獲を観察することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の研究内容は、【1】試料作製(照射欠陥による水素吸蔵増加が顕著に生じる系として、水素溶解度が金属中で最も小さい純タングステンを準備する。試料の表面状態は水素侵入挙動に大きく影響するため、表面状態には留意する)、【2】電子線照射(2MeV電子線照射を行う。照射中の試料温度は高精度でオンライン制御する)、【3】試料への水素導入(照射済み試料および未照射試料に気体吸収法によって水素を導入する)【4】水素-空孔型欠陥の観察(欠陥導入および水素化を行った試料の陽電子消滅測定および昇温脱離分析を行う)、【5】水素ガス雰囲気照射技術の開発(水素ガス雰囲気で中性子照射を行うことを検討し、その準備を行う)、【6】第一原理計算(研究分担者大澤が担当。水素-空孔系の安定構造を第一原理計算によって求める)であった。【1】-【4】は順調に進捗し、特に【4】では照射欠陥への水素捕獲を明瞭に観察することができた。【5】、【6】も概ね当初の予定通りの進捗状況である。
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今後の研究の推進方策 |
まず、電子線照射および中性子照射を進める。電子線照射では、京都大原子炉実験所ライナック加速器も利用する。中性子照射では、ベルギー原子力研究所(SCK/CEN)のBR2を利用する。照射温度は290-400℃程度とする。必要に応じてカドミウムなど熱中性子シールドを用いて試料の放射化を極力抑える。次に、試料への水素導入および水素-空孔型欠陥の観察を行う。平成29年度と同様にして、照射済みタングステンに水素を導入し、陽電子消滅測定および昇温脱離分析を行う。また、水素結合エネルギーの理論計算(研究分担者大澤が担当)も行う。熱動力学的モデルを用いて、陽電子消滅法で同定された水素捕獲サイトを中心に種々の捕獲サイトに関して水素吸蔵量の温度依存性を計算し、水素結合エネルギーを評価する。最後に、実験と理論とを直接比較し、水素捕獲サイトの実体、捕獲サイトの水素配位数、水素結合エネルギーのそれぞれについて検討する。
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