研究課題
ラジオフォトルミネッセンス(RPL)現象に基づく銀活性リン酸塩ガラス線量計(以後,蛍光ガラス線量計と呼ぶ)は,X線,ガンマ線のみならず中性子線,重粒子線等の線種に対する信頼性の高い線量計として確立されてきている。本研究者はこの材料の広範囲な応用探索と開発を行ってきた。これまでの実績として,この材料を活用したディスク型二次元(2D),三次元(3D)イメージング検出器の開発,フェムト秒レーザー励起による銀ナノ粒子の直接形成とその光学特性の把握,ナノ秒レーザー励起時間分解蛍光スペクトル法による異なる線種に対する材料の深さ方向のRPL蛍光中心の線量分布の観察,共焦点レーザー顕微鏡による蛍光核飛跡検出器(FNTD)としての実証などが挙げられる。このような状況下,本研究ではこの蛍光ガラス材料の新たな応用開発とそれに伴う物理的探究を通して線量計としての更なる機能化と高性能化を目指すことを目標としてきた。本年度は実施計画で取り挙げた項目の中で(1)1光子ならびに2光子励起レーザー共焦点顕微鏡を駆使し,収束したプロトンビームで蛍光ガラス検出器中に書き込んだ各種マイクロスケールパターンの3Dイメージングの可視化と評価,(2)この材料の特有な特性であるRPL蛍光中心の“ビルドアップ現象”の形成機構の解明を行った。そのために新たなリアルタイムRPL検出器システムの構築を行い,これによる時系列での蛍光中心の挙動を調べた。前者の実験は受動型検出器での初めての試みであると共に2光子励起レーザー共焦点顕微鏡の優位性を実証する重要な結果である。この論文は2018年のJpn. J. Appl. Phys. のspotlightsに選ばれた。また後者の実験も新たな試みであり,この材料をリアイタイム検出器として今後実現するために解決しなければならない諸課題に取り組んだ重要な実験結果である。
2: おおむね順調に進展している
本年度は計画した4項目中2項目の課題を実施した。1.どちらの実施課題もこの材料を用いた新たな試みであり,この分野での貢献度は高いと評価できる。2.これを裏付ける証拠として,発表した論文はJpn. J. Appl. Phys. のSpotlights-2018として取り上げられた注目論文である。
今後の推進方策として,開発した光ファイバーとX線照射装置を組み合わせたリアルタイム蛍光ガラス線量計の線量率,吸収線量の校正と実用化を念頭に置いたシステムの確立を実施する。その開発,実験実施過程で新たに生じる問題点や現象の解決・解明を行う。さらに,1光子ならびに2光子励起レーザー共焦点顕微鏡を駆使して,本実験で扱っている銀活性リン酸塩ガラスとほぼ同じ密度でこれまで固体放射線量計としても用いられてきているフッ化リチウム(LiF)単結晶材料との各種パラメータとの比較検討を行う。予備実験の段階ではあるが,これらの材料に重粒子線を照射しブラッグピーク(Bragg Peak; BP)の比較をしたところ照射エネルギーに相当したBP値を得ているが,深さ方向に誘起される各種カラーセンターの分布形状に明らかな相違があることが判明した。その相違が両材料の何に起因しているかについて,線種の違いや異なるエネルギー,フルエンスを変化させながら共焦点顕微鏡を用いてミクロスケールでの観察で解明していく。さらに,これらの実験と並行して申請時に取り挙げた材料中の“プレドーズ”(素子固有の発光)の起源とその低減の方策を明らかにする。特に,“プレドーズ”はガラス材料の表面状態に敏感であり,ICP-MS分析,XPS分析等の手段を用いて,不純物の付着,作製時に形成される銀関連のセンターの価数等も調べる。また,異なる線種(X線,ガンマ線,重粒子線)や線エネルギー付与(LET) 値の違いによる核飛跡の振る舞いやRPL効率のLET値依存性などについても検討していく。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Japanese Journal of Applied Physics
巻: 57 ページ: 02CC01-7
org/10.7567/JJAP.57.02CC01