種々の遷移金属をドープした酸化リチウム中では電気化学的な酸化物イオン/過酸化物イオンのレドックスが進行することが知られており,軽量な酸素種のレドックスを利用するため二次電池正極として重量当たりの大きな容量が期待されている.これら遷移金属ドープ酸化リチウムは準安定相と考えられており,固相法などでの合成が困難なことから遊星ボールミルを用いたメカノケミカル手法で合成されている.しかしこれまでに目的物の純相を得ることはできておらず,生成する遷移金属ドープ酸化リチウム,残留した出発原料および副生相に対してミリング条件との詳細な関係は明らかにされていなかった. コバルトドープ酸化リチウム(CDL)について遊星ボールミル合成時のメディアボール径や回転速度、処理時間などを詳細に検討した結果,合成時の投入エネルギーが大きな場合には一旦生成したCDLが分解することが明らかとなった(従来の合成条件はこの条件領域に含まれていた).ボール径,回転速度を調整し投入エネルギーを適切にすることでCDL分解反応を起こさずドープ反応のみを進行させほぼ単相を得ることができ,また従来上限と考えられていた量を超えてコバルトをドープすることにも成功した.Coドープ量が増大したことでリチウムイオン電池正極としての充放電容量が向上した.さらに,合成時のボール径が大きいほどCDL粒子の凝集が抑えられることも明らかとなった.これらを組み合わせた条件(5 mmΦボール,420 rpm,100 h)によって高Coドープ量でかつ粒子凝集が抑えられたCDLが得られ,高容量(450mAh/g)での充放電サイクルが可能となることを確認した.
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