研究課題
銀およびインジウムの複合金属硫化物あるいは硫化鉛からなる量子ドットに関して、オレイルアミン、塩化テトラブチルアンモニウム、エチレンジチオールを配位子として利用し、均質かつ高い分散度の分散液を得た。これらの試料を溶液の対流と揮発性有機成分の自然蒸発現象を伴うメニスカス方式の対流沈着塗布法により成膜した結果、成膜時の原料の節約に大いに貢献すると共に、均質な粒子径のコロイダル量子ドットを二次元的に超格子構造で最密充填させ、三次元的に積層した多重積層のp-i-n型量子ドットハイブリッド太陽電池を組み立てることに成功した。すなわち、従来のスピンコーティング法により成膜した場合と対比すると、太陽電池を構成する他の材料との接合の不具合が解消され、太陽電池光電変換特性が向上した。具体的には、有機金属ハライドペロブスカイト型太陽電池の電子輸送層として酸化チタンを成膜する際に、直径4 ~ 6 nmのAgInS2量子ドットを添加すると、電子輸送層の電子移動度が増大すると共に、金属硫化物量子ドットから有機金属ハライドペロブスカイト層へのダウンコンバージョンによる光電流発生効率の増大が観測され、最高値で17%の光電変換効率を達成した。さらに太陽電池のガラス封止を行い、室温暗所下で保存したところ、変換効率を損なうことなく200日以上の安定作動を確認し、金属硫化物量子ドット添加による長寿命化を実現した。また、硫化鉛からなる量子ドットに関して、塩化テトラブチルアンモニウムあるいはエチレンジチオールを配位子に用いた分散液を酸化亜鉛ナノロッドアレイ上にメニスカス方式の対流沈着塗布法により成膜すると、ナノロッドアレイのロッドとロッドの間に量子ドットがスピンコーティング法で成膜した場合よりも深く潜り込み、空隙がほぼ解消することにより、開放電圧と整流比が増大し、相対値で 10%の効率向上を実現した。
2: おおむね順調に進展している
亜鉛、銀およびインジウムの複合金属硫化物や硫化鉛からなる直径4 ~ 6 nmのAgInS2量子ドットの超格子構造は、透過型電子顕微鏡観察により確認し、学術誌(Organic Electronics)に掲載された。有機金属ハライドペロブスカイト型太陽電池の電子輸送層として応用した場合のデバイスの長期安定化は、別の学術誌(J. Mater. Sci.)に掲載された。硫化鉛からなる量子ドット太陽電池をメニスカス方式の対流沈着塗布法により成膜した場合の開放電圧と整流比の増大による効率向上については、もう一方の学術誌(ACS Energy Lett.)に掲載された。また、硫化アンチモンを活性層とするハイブリッド太陽電池の界面接合の改善と評価については、アメリカ電気化学会で査読のプロセスを経て口頭発表すると共に、トランスアクションズにも掲載済みである。これらの成果は査読を必要とする3つの国際会議で4件発表されると共に、プロシーディングスに掲載された。とりわけ、平成30年12月に開催されたJoint Conference on Renewable Energy and Nanotechnologyにおいては、best oral presentation awardを受賞し、高い評価を得ることができた。
配位子置換後のコロイダル量子ドットの吸収および発光スペクトル特性を調べ、バンドギャップ調整やキャリア移動特性等を精査する。また、格子欠陥や不純物準位でのトラップや再結合の抑制と、太陽電池を構成する他の材料との接合の不具合の解消について、X線回折測定、光電子スペクトル測定、その他の方法により系統的に調査し、太陽電池の光電変換特性を高める成膜条件の最適化を試みる。また、量子ドットの配位子をハロゲン化物に置換することによる不動態化の促進およびキャリア移動度の増大についても継続して検討し、太陽電池の光電変換効率をさらに向上させる効果を調べる。一方、量子収率の増大については、前年度から継続してCdSe/CdSコア/シェル構造の量子ドット作製を実施する。また、量子ドットの吸収波長と発光波長の選択とシリコン太陽電池や有機薄膜太陽電池の活性層の光電流発生効率が最大となる吸収波長領域とのマッチングによる量子収率の向上を図る。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (2件)
Journal of Materials Science: Materials in Electronics
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