研究課題/領域番号 |
17H03538
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
重川 直輝 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (60583698)
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研究分担者 |
金 大貴 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (00295685)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 太陽電池 / 量子効率 / 半導体ナノ粒子 / コアシェル型ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、太陽電池の特性を「後付け」で向上させるための手法の研究にある。そのために、半導体ナノ粒子固有の特徴である波長変換機能に着目している。具体的には(1)波長変換機能を備える、すなわち短波長の入射光を吸収し所望の長波長の光に変換する半導体ナノ粒子を合成する。具体的には、発光中心としてMnをドープしたZn系ナノ粒子を合成する。コアシェル構造を用いて高量子効率の実現を目指している。(2)(1)の半導体ナノ粒子を作製済みの太陽電池表面に積層し半導体ナノ粒子多層構造を形成する。(3)ナノ粒子の波長変換機能により太陽電池の分光感度特性の変化の可能性を調査する。作製後の太陽電池の変換効率増加の可能性、タンデム太陽電池におけるサブセル間の電流不整合の緩和の可能性を明らかにする。 2018年度は、上記目的の実現に向かって、MnをドーピングしたZnSeナノ粒子(ZnSe:Mnナノ粒子)の作製方法の研究を行った。ナノ粒子のフォトルミネッセンス測定により、Mn中の内殻遷移に起因するルミネッセンス発光を観測した。作製条件を最適化することにより20%の量子効率を実現した。ZnSe:MnをコアとしZnSをシェルとするZnSe:Mn/ZnSコアシェル型ナノ粒子を作製し、量子効率30%を達成した。 更に、レイヤバイレイヤ法を用いてCdSナノ粒子をSi太陽電池表面に10-30層堆積し、堆積による太陽電池の特性変化を調べた。ナノ粒子堆積後、ナノ粒子の吸収波長に相当する420 nm付近において太陽電池からの反射率が減少することを見出した。この結果により、太陽電池表面に堆積したナノ粒子により光吸収が起こっていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の通り、当初計画に即して研究が進捗している。 (1)Zn系Mnドープコアシェル型ナノ粒子を開発した。量子効率30%を達成した。 (2)Si系太陽電池表面にCd系ナノ粒子を堆積し、太陽電池特性におけるナノ粒子の光吸収効果を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度にあたり、Zn系Mnドープコアシェル型ナノ粒子の太陽電池応用をターゲットとし、以下の方針の下で研究を実施する。
(1)MnドープZn系コアシェル型半導体ナノ粒子の合成条件を最適化する。Mn原子の位置を制御し、高量子効率(>50%)の可能性を探索する。(2)Zn系半導体ナノ粒子のSi太陽電池表面の積層技術を開発する。大気中のプラズマ照射を用いて、プロセス完了後のSi表面の親水化を検討する。レイヤバイレイヤ法における積層数の制御性向上の研究を行う。並行してナノ粒子の高密度堆積を実現するためにポリビニルアルコールを用いたPVA法を検討する。(3)現状の太陽電池構造では、Si太陽電池表面における半導体ナノ粒子多層構造からの発光が太陽電池中に十分伝搬していない。発光を効率的に太陽電池内部へ伝搬させるための構造を検討する。(4)以上の研究を統合して、所定の光学密度のMnドープZn系ナノ粒子を堆積したSi太陽電池を作製する。比較用にMnをドープしていないナノ粒子を同一手法で堆積した太陽電池を用意する。Mnをドープしていないナノ粒子は波長変換機能を持たない。従って400 nm付近の入射光の吸収のみが起こる。その結果、ナノ粒子堆積により内部量子効率は低下する。一方でMnをドープしたナノ粒子を堆積した太陽電池においては、ナノ粒子の波長変換機能により400 nm付近の入射光が吸収され、より長波長の発光が起こる。この発光がSi太陽電池へと伝搬し発電に寄与する。その結果、400 nm付近での内部量子効率が増加する。
太陽電池の分光感度を測定することにより上記仮説を実証し、研究目的(半導体ナノ粒子の波長変換機能を活かした変換効率を後付けで制御可能であることの実証)を達成する。
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